高齢期における運動習慣や歩行活動が認知機能の保持や記憶能力の低下予防に有効であることが示唆されている。本研究は、地域在住高齢者120名(65歳以上、平均年齢70歳)を無作為に中強度歩行活動群、低強度歩行活動群、統制群の3群に分割し、加速度センサー付歩数計を用いた2年間の運動介入を実施した。主に前頭葉機能(遂行機能)について運動介入の効果を検討した。遂行機能の評価にはタスクスイッチ課題を行い、その正答率や反応時間を分析した。さらに、認知神経科学的妥当性を検証する目的で、fMRI装置により遂行機能関連脳領域の神経賦活について解析を行った。 実験協力者120名中、途中辞退者は30名であった。2年間の日常的活動状況に関する3群の比較では、運動介入群(低強度、中強度活動群)において活動時間の有意な加齢低下は認められなかった。遂行機能に関して、中強度活動時間の加齢低下のあった群となかった群を比較した結果、加齢低下のあった群において遂行機能の有意な低下が認められた。一方、低強度活動時間との間に明らかな効果は認められなかった。また、遂行機能関連脳領域(前頭前野、補足運動野、帯状回)の解析では、2年間で日常的身体活動(中強度)が低下した群において、課題依存の神経活動の低下傾向が認められ、それ以外の神経領域(頭頂葉、上側頭回)に補完的な活動が示された。 以上の結果から、高齢者の日常的身体活動のうち中強度の活動時間の加齢低下を予防することによって認知機能(特に遂行機能)の維持が期待されることが考えられた。
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