研究課題/領域番号 |
25350718
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
吉川 和利 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, その他 (00112277)
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研究分担者 |
岡田 英孝 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (20303018)
狩野 豊 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (90293133)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 合気道 / コヒーレンス / 呼吸 / キネマティック変数 |
研究実績の概要 |
本研究は技能の進展と呼吸の様態の同期現象を解明しようとして企図されたものである。そのため(A)技の熟練度と呼吸の様態の関連を実験的に検討し、他方では(B)熟練した合気道家の説く諸説を整理する伝承技術体系化も必要である。 (A)の場合、攻撃(受け)を想定しながら、指定された技を実施(取り)する自主演武を解析した。被験者は上級者(合気道歴8年)、中級者(同3年)、初級者(同2年)、初心者(同半年)であり、いずれも演武の概要と実験上の心身負担について説明を受けて承諾した大学合気道部員である。以下10種の基本技の演武中の動作を撮影し、足首、膝、腰、手首、肘、肩などの動きをモーションキャプチャ(MC)にて解析、また鼻センサーを通じて動作中の呼吸様態情報を収集した【正面打ち:一教・入り身投げ、逆半身片手取り:呼吸法・入身投げ・四方投げ、諸手取り:呼吸法・一教・入身投げ、逆半身両手取り:天地投げ、座技呼吸法】。これらの動作と呼吸情報は今後も同じ方式にて個人追跡(縦断)的に収集し、動作と呼吸のコヒーレンスについてはデータ収集が完遂した時点で一括的に解析する予定である。 (B)の技術伝承の整理法としては研究者自らが合気道稽古過程で獲得した知見や記録を整理し、また多くの合気道家によって検討された修練方法を整理することがある。すでに複数の合気道研究者の文献的記述、プロの合気道指導者あるいは数十年以上の合気道稽古を継続する高段者からの聞き取りを行い、「技の掛け始めに息を吸う」所作が共通して意識されていることを確認している。佐々木貴氏は腕の操作が十字になることに加え、呼吸法が「相手に手を持たせるまで息を吐き(縦の腹式呼吸)、相手と接したところから息を入れ(横の胸式呼吸)、相手を投げたり地に沈める時に息を吐く(縦の腹式呼吸)」としている。この文献的手法あるいは聞き取り手法も今後、積極的に取入れて行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合気道では呼吸鍛練法(呼吸法)としての取り組みは日常的に行われているが、一般的には技の状態と呼吸様態の関係は必ずしも明確ではない。本研究ではこの点について(A)異なった合気道技能の被験者を実証的に横断比較し、また同一被験者の縦断的解析も継続中である。一方で(B)技術の伝承側面から検討することも行っていくことにしている。 (A) に関しては技能の進展と呼吸・動作コヒーレンスの実証的検討を行っている。このうち座技呼吸法に関して初段以上の者では動作開始直後には息を吸う動作が観察されるが、初心者では息を詰めたまま(止息)の状態が継続すると考えられた。ただしこれらは合気道経験者が被験者を外部観察的に認めたり、聞き取りによって得られた情報であり、今後のMCや呼吸センサーによる研究資料の蓄積によって客観的に解明されるものである。 (B) に関しては合気道開祖あるいは高段者の陳述に留意が必要であることを認識し、データ収集を以下のように行って来た。武道の技術伝承は高段者の動作を観て、真似ることを繰返す手法あるいは口伝によることが一般的であり、科学的に整理された文献として残ることは少ない。そのため研究分担者吉川は合気道のプロ指導者や経験年数40年以上の高段者からの直接の聞き取りを行って来ている。最近ではインターネットのブログ上に情報が示されるようにもなっており、佐々木貴氏のそれが優れたものであることがわかった。この記述を含め、複数の合気道のプロ指導者や高段者において「技の掛け始めた瞬間には息を吸う」所作が共通して意識されていることを確認できている。今後は、こうしたインターネット情報についても資料として収集し、研究資料化していく。
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今後の研究の推進方策 |
上記の達成状況を踏まえ、以下のような研究を今後進めて行く。(A)とした実証的なデータ収集法は継続しておこなう。すなわちMCによる合気道の動作解析とならびに呼吸様態のパラメータとのコヒーレンスの状況を縦断的、横断的に解析し検討していく。ただしこれらの情報解析者を専門的にトレーニングして行く必要があり、今後、研究室学生スタッフにその任を委ねたい。また被験者は研究分担者である吉川自身のほか、大学に入学後、合気道稽古を開始した学生数名であり、その技の進展度をMCによって検討し、併せて呼吸の様態についても数ヶ月単位で縦断的な変化の検討を継続していく。また同様な動作(呼吸様態)解析システムを用い、高段者として4段以上の熟達した合気道家の動作と呼吸様態を横断的解析によって検討することも必要と考えている。これらの動作・呼吸情報解析は同一解析者がベストと考え、H26年度までのものも含め、一括処理していく。 同時に、(B)の技術伝承的なアプローチとして以下のような方法を採用する。研究代表者自らの修練の中で多くの高段者との実動的接触により、技を発揮し易い呼吸様態を検討していくことを継続する。また合気道家を含め内外の武道家の見解を整理していくことも有効であり、この作業も進めて行く必要がある。この場合、すでに意見交換をしている国内の高段者やプロ指導者のほか、海外の合気道家とも連係していく。一方で、武術研究家の甲野善紀氏、居合道の黒田鉄山氏など武道の研究家の陳述も整理していく。また今後は、収集した研究資料を論文化・学会発表し、公開にする作業を今年度には行おうとも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)動作ならびに呼吸情報は5割程度の収集が行われ、今後も縦断・横断的に収集されていくが、そのデータ管理は集中的一括的に行う方が効率的な解析に進むことができる。また、これを担当する研究室学生は同一人であることも信頼性を高めるのに都合がよい。こうした事情から収集されたデータの解析のための謝金が不要となったため。 2)欧文論文として予定していた原稿が結果的に邦文となり、翻訳業者への役務費が不要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由1)に関しては早期に実験者・被験者との時間調整を行い、データ収集を行って後、集中的一括的に解析担当者に解析を委ねたい。 また理由2)に関しては欧文論文の執筆を急ぎ、複数の論文を仕上げる。
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