研究課題/領域番号 |
25350720
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
水沢 利栄 福井大学, 教育地域科学部, 教授 (70174274)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スキー場 / 安全管理 / スキー指導 / 事故 / 雪崩 / 初級者 |
研究実績の概要 |
本研究は、2008年2月長野県栂池高原スキー場において愛知大学のスキー授業中に発生した雪崩事故について、その責任の所在を明らかにすることを目的としている。なぜ指導引率のA教員が進入禁止のネットを越える判断をしたのか、スキー場管理者は、なぜ初級者の一行を林間コースに進入させることを食い止めることができなかったのか、この点について調査を行っている。 刑事裁判、および民事裁判においては、A教員が雪崩の危険を知りながら林間コースへ入ったことの責任を追及されたが、スキー場側の情報提供方法等を考えると、ネットを張るだけの処置では、今後も同様な事故の発生が懸念される。 特に初級者にとって、唯一の下方へ下る緩斜面のコースを閉鎖されることで、先へ進むことも後退することもできない状況に追い込まれるため、先へ進まざるを得ない状況が発生する。それ故に、中・上級者とは異なる安全確保処置が重要となる。スキー場管理者は、初級者に対する安全確保の点から初級者用コースが閉鎖されているという情報を確実に提供しなければならないことはもちろん、コースを閉鎖するスキーパトロールが閉鎖直後に初級者の接近がないこと、現場に到達するゴンドラやリフトに初級者の搭乗がないことを確認するなどの管理方法が求められる。このことに関しては、スキー場の安全基準で示されていることではあるが、見落とされている点である。 二度と同様な事故を起こさないためにスキー場の安全管理対策としてアメリカ、カナダの管理方法や、橋梁工事で事前に迂回案内をする方法や火災現場での危険情報を提供して消火作業に当たる者の安全を確保する対策が参考になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成26年度の調査では、2008年2月の栂池高原スキー場雪崩事故の経緯と態様、そして、事故後の管理方法の変遷等に関しては概ね把握できた。平成26年度の本研究の対象を広げることになったが、平成27年1月に相次いで発生したバックカントリーでの遭難事故に関連して、雪崩に遭ったとしても早期に発見・救助を行うためにビーコンが必要となることが一般の愛好者らにも大きく報道されたため、本研究者も急遽ビーコンを購入し複数での学生で捜索救助の体験を行った。ビーコンは初級者の安全確保のために導入の価値が高いこと当の知見を得ることができた。 さらに指導者の責任に関連して、平成26年12月に山形県で起きたスキー学校の講習中に受講生が新雪に頭から突っ込み窒息死した事故を調査した。その結果、上級者にあっては、指導者の指導監督中の事故とはいえ、本人の判断とミスから発生した事故や傷害に関しては、指導者の責任よりも本人自身の責任が相当に大きくなるという判断がなされることになる。その実例として貴重な資料を収集することができた。 アメリカのスキー場におけるスキー場の安全管理に関しては、規定云々よりもむしろお客さまとしての来場者へのサービスとして不安を与えるような状況を作らないような配慮が重要であり、ホスピタリティとしての管理の重要性を認識することができた。 しかし、本研究者は平成27年6月より体調を崩し、研究資料収集のための出張ができなくなった。また研究テーマのスキー場に出向いて雪上で資料を収集することが困難となった。そのため体調が回復するまで研究機関の延長を申請したところである。
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今後の研究の推進方策 |
雪崩の危険区域への進入を防止するためには、単に立ち入り禁止の措置を講ずるだけでは困難であると考える。スキー場管理者は初心者・初級者の特性を理解しつつ安全を確保するために行動を制限する手法等の管理方法が求められる。そこで重要となることは初心者に対する情報発信とルールを遵守することの教育である。初心者には、指導引率する者についても該当するという立場を取る。毎日のように滑っている指導者とは異なり一年に一度程度来場するA講師のような指導者にとっては、事故現場でのオペレーションについては不案内なことである。立ち入り禁止の措置がある場面で、ルールは知っていても逆戻りをすることができない状況ではルールを守れと言われても無理な状況も発生する。今一度、橋梁工事における通行車両に対する案内やアメリカ・カナダでの安全確保のオペレーションについて確認し、その対応が重要なことを確かめ、事故の再発防止のための方策を検討する。 スキー場における初級者等の安全確保に関して、情報提供とルールを遵守することの教育が重要であることは基本である。昨今の日本のスキー場における外国人の増加という状況に関しても、日本語による案内表示の意味が分からない外国人の存在は、危険を助長する懸念がある。案内表示の意味が理解できない子どもや、大人の初心者・初級者と同様、スキー場における弱者と捉えて、教育だけでは安全確保は難しいことから丁寧な対応・手引きが必要となる。いかにこれらの「スキー場弱者」に対する安全性向上を図る直接人対人の導きのサービスが重要であり、安全確保の対象を拡大すべきと考える。これらの方法をまとめるべく引き続き研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究者は平成27年夏ごろより体調を崩し研究資料収集のための出張ができなくなった。また研究テーマのスキー場に出向いて雪上で資料を収集することが困難となった。そのため体調が回復するまで研究期間の延長を申請しているところである。
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次年度使用額の使用計画 |
体調が回復次第、資料収集及びスキー場での調査を行い、本研究をまとめる。
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