本研究は、2008年2月長野県栂池高原スキー場において愛知大学のスキー授業中に発生した雪崩事故に関して、その発生の原因を明らかにし問題点について考察するものである。雪崩の危険のあるコースになぜ指導引率のA講師が進入禁止のネットを越える判断をしたのか、スキー場管理者は、なぜ初級者の一行を林間コースに進入させることを食い止めることができなかったのか、この点について調査と検討を行った。 刑事裁判、および民事裁判においては、A講師が雪崩の危険を知りながら林間コースへ入ったことの責任を追及されたが、コースを閉鎖したネットの意味を理解できなかったA講師の責任は大きい。しかし、雪崩に関する情報が提供されていなかったA講師が数百メートル先の危険を察知するということは困難であった。さらにスキー場パトロールの雪崩に関する情報提供は十分ではなく、ネットを張るだけの処置では、A講師に対して別の解釈を想起させることにつながるものとなったことが考えられる。特に初級者にとって、唯一の下方へ下る緩斜面のコースを閉鎖されることで、先へ進むことも後退することもできない状況に追い込まれるため、先へ進まざるを得ない状況が発生する。それ故に、中・上級者とは異なる安全確保処置が重要となる。スキー場管理者は、初級者に対する安全確保の点から初級者用コースが閉鎖されているという情報を確実に提供しなければならない。コースを閉鎖するスキーパトロールが閉鎖直後に初級者の接近がないこと、現場に到達するゴンドラやリフトに初級者の搭乗がないことを確認するなどの管理方法が求められる。このことに関しては、スキー場の安全基準で示されていることではあるが、見落とされている点である。 二度と同様な事故を起こさないためにスキー場の安全管理対策として、橋梁工事や道路工事で通行できなくなる対象の車両に対して、事前に迂回案内をする方法が参考となる。
|