本研究は,体育学習の「競争―協同」,及び「体つくり運動」の学習場面に注目し,「競争―協同」,「体つくり運動」がどのように解釈され,カリキュラム構成され,授業―学習として実践されるのか,さらに学習者がどのようにそれらを受け止め,内面化していくのかについて,カリキュラム・ポリティクスの視点から事例的に検証することを目的とした. 最終年度は,前年までの研究の成果をまとめるとともに,「子どもの体力向上」をめぐるローカル・ポリティクスについて,東京都,及び大阪府の状況に焦点化した研究の成果発表を行った.東京都や大阪府の施策は,近年の社会環境や生活様式の変化に対応する「総合的な方策」の重要性を指摘した子どもの体力に関する中央審議会答申(2002)とは,「ズレ」が認められた.小中学生の運動習慣づくりに競技スポーツを活用する事業が多く,体力調査結果の数量的な推移や他地域との比較に執着する状況が見られた. また,体育における競争の強調は,女性の運動・スポーツ離れにみられるように,運動・スポーツの世界で周辺化される人々を作り出す力学を持つことが示唆された.現行の学習指導要領に示された体育カリキュラムでは,武道・ダンスの必修化,体つくり運動の強化,系統性の重視という変更点のどれもが,ジェンダーの序列化を促進し,身体の価値を値踏みするポリティクスとして機能している. 研究全体を通じて,体育の「競争―協同」,及び「体つくり運動」について具体的な事例から検討した結果,スポーツの競争性や体力の序列化が強調される傾向にあり,その結果,たくましさや競争の世界に違和感や居心地の悪さを感じる人々をスポーツから離脱させ,周辺化させていると推察できた.
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