研究課題/領域番号 |
25350740
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
有山 篤利 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (20530629)
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研究分担者 |
薮根 敏和 京都教育大学, 教育学部, 教授 (10166572)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 柔道授業 / 武道必修化 / 伝統文化 / 柔の理 |
研究実績の概要 |
本研究は、武道の戦術的な思考パターンである「柔の理」を手がかりに、伝統的な行動の仕方や考え方を明らかにすることによって、伝統文化を学ぶ柔道学習への応用を目指すものである。本年度においては、柔の理を「強い力同士の衝突を回避するように、臨機応変に変化する」という思考パターンと定義し、その定着度を量的に測定する尺度の完成を目指した。 尺度の作成に当たっては、項目内容の妥当性を担保するためデルファイ法を用いることとし、異なる背景をもつ4つの専門家グループを設定したうえで、その直観的意見や経験的判断を反復型アンケートを用いて集約・洗練することとした。その結果、合計17回に及ぶ意見集約を行い、合計28項目の尺度に収束することができた。なお、専門家グループは、①柔道を専門とする研究者及び中・高校教員、②古流柔術流派代表及びその高弟、③調査分析を専門とする企業、④スポーツマネジメント及び国語を専門とする研究者等を設定し、それぞれのグループは互いにバイアスのかからぬよう独立性を確保した。 その後、28の尺度項目を「柔」と「剛」を示唆する内容として対置し、その意味差別を判別する質問紙を作成し、①古流柔術修行者、②柔道競技者、③レスリング競技者、④競技未経験の一般人の4つの調査対象に対しアンケートを行い、合計701名の回答を得ることが出来た。 「柔の原理」を継承していると予測される①古流柔術修行者及び②柔道競技者合計378名の回答について、項目得点の分布や通過率・識別力等を検討するとともに因子分析を行った結果、合計23項目が尺度として採用され、2因子が抽出された。第1因子は「臨機応変性」第2因子は「力の衝突の回避」と命名された。その後、信頼性の検証や、③レスリング経験者や④一般人のデータを用いた構成概念の妥当性の検証を経て、「柔の原理」の定着度を量的に把握する「柔の原理定着尺度」を完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は、武道必修化に対応し、柔道授業を通して自国の運動文化を学ぶ授業づくりを提案することにあり、武道の戦術的な思考パターンである「柔の理」を手がかりにすることによって、自国の「伝統的な考え方や行動の仕方」を運動学習として学ぶことのできる柔道授業のプログラムを検討している。より、具体的には、これまで抽象的概念として知識の内容においてのみ指導されてきた「柔の理」を、実際に「柔の理」に基づいた動きや戦術等技能の内容として学習可能な柔道授業を提案したいと考えている。 初年度である平成25年度は、運動文化を学ぶ柔道授業の基礎となる理論の構築を目指し、「柔の理」を核にした柔道の学習内容とその学習構造に関する整理を行い、学術論文としてまとめることができた。また、2年目の平成26年度については、これまでまとめた学習内容と学習構造を前提に、実際に授業を展開するための指標を明らかにすることをねらいに、「柔の理」に基づいた動きや戦術を具体的な姿として把握する尺度の作成に取り組んだ。 共同研究者をはじめ多くの協力者の支援を得て、4~8月中に尺度作成の元となる項目を設定することができ、9~12月にかけてアンケート調査を実施することができた。その後、1~3月を分析期間にあて、23項目からなる「柔の原理定着尺度」を完成することできた。平成27年中には、その成果を学会における発表及び投稿論文として発表可能な段階に至っている。 平成26年度中に、当初の研究の目的を達成するための理論構築、及びその具体的な手段としての測定尺度の作成を終えることができ、学会発表や論文作成が可能になったため、「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「柔の原理定着度尺度」の作成過程とそこから得られた知見を、日本体育学会及び日本武道学会において発表するとともに、論文としてまとめ学会誌に投稿する予定である。 また、27年度については、「柔の原理定着度尺度」を用いて、実際の中学・高校等の体育授業において、「柔の理」が柔道の学習の結果どの程度生徒に定着しているのか、その実態を把握するとともに、その結果をもとに現在の柔道授業の課題を明らかにし、運動の学習の中で自国の運動文化を学ぶ授業プログラムの必要性を訴えていきたいと考えている。 調査に当たっては、4~6月中に調査の枠組みを検討した上で、中学校及び高等学校をそれぞれ数校選定し、当該校のカリキュラムに合わせてアンケート調査を実施することとする。対象校の選定に当たっては、すでに我々の研究グループにおいて作成した「柔の理」の学習に焦点当てた学習プログラムである「発見型柔道学習」を活用している学校と、従来型の指導によって指導を行っている学校を選定する。両タイプの授業を受けた生徒の「柔の理」の定着度合いの比較によって、その違いを比較検討するとともに、実際に「柔の理」が体育の学習として成立させることが可能であるのかどうかを検証したいと考える。 調査については秋までに終了し、本年末を目途に分析を終え、その結果については投稿論文としてまとめるとともに、年度を越えるが、平成28年度の諸学会において発表することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度使用額の端数が残金として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、物品費(消耗品)の購入に充当する予定である。
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