研究課題/領域番号 |
25350749
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
清水 紀宏 筑波大学, 体育系, 教授 (50196531)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ダブルループ学習 / 信念 / 越境経験 / ジレンマ |
研究実績の概要 |
本年度は、全国の保健体育教師を対象とする質問紙調査結果の詳細な分析および長期研修に参加した経験を有する教師を対象とした事例研究を行った。 体育教師の研修活動の実態を把握するために行った質問紙調査結果を分析したところ、体育教師による研修機会への参加状況は概ね停滞していることが明らかになった。また、教師個人、教科教員集団、学年集団、学校、行政といった研修機会の重層性を踏まえた分析の結果、体育教師が重視する研修ならびに実際に参加する研修はインターネット等による個人的な情報収集や同じ教科を担当する同僚教師との情報交換に偏っていることが明らかになった。なお、長期に現場を離れて行う研修については体育教師として成長する機会と捉えられている反面、およそ半数の教師が参加に消極的な態度を示していた。また、経済的条件(学費の負担免除など)、家族の承諾、勤務校への負担、派遣先の自由度等が長期研修への積極的参加の条件となっていることが明らかになった。 さらに本年度は、過去に長期研修に参加し飛躍的な学びと成長を経験したと自覚している現職教員を選定した上で事例調査を行い、長期研修における学びを支えている経験とその経験が生じる条件あるいは文脈を検討した。調査に際しては、2014年5月~6月に長期研修参加者を受け入れている大学教員の協力を得て、事例抽出に向けた予備的なヒアリングを行い、2014年7月~10月にかけて9名の現職体育教師に対するインタビュー調査を実施した。事例調査の結果、長期研修を通じた深い省察には、大学教員のもとで論理的な思考様式を学びつつ理論的な知識や客観的な情報に触れることで、自身が抱いてきた日常的な知識や経験知が否定されるジレンマの生起が関わっていた。さらに長期間にわたって現場や家庭から距離を置く越境経験がそのジレンマを反復的・継続的に生じさせる環境として機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画通り、前年度に実施した質問紙調査の分析および本年度の主たる課題であった事例調査を実施した。当初、希少性の高い事例の選定に多くの時間を費やすことが予想されたが、研究代表者が有する学校関係者とのネットワークに加えて、長期研修生を受け入れている大学教員の協力を得ることができたため、円滑な事例選定と調査を実施することが出来た。都道府県・政令指定都市教育委員会の研修制度に関する実態把握はやや遅れているものの、本年度は研究の目的として設定した長期研修の成果ならびに成果を規定している要因の解明に向けた重要な知見を得ることが出来た。以上のことから、研究目的の達成については概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成27年度は、主に2つの課題を設定し作業を進める。 第1に、課題として残されている都道府県・政令指定都市教育委員会の研修制度および研修体系の資料収集である。資料収集の手続きについては前年度に計画済みのため順次、作業を実施する。 第2に、本年度までの調査研究によって得られた知見を現行の研修制度や実態と対比させて考察し、長期研修はもとより体育教師の研修に資する実践的なインプリケーションを提示する。具体的には実証的な分析で得られた知見を一般経営学における組織学習論や教育経営学における研修経営論の枠組みに基づいて考察する。最終的には、参加者の希少性や限定性の高い長期研修に関する研究成果から、体育教師の研修全般に対する示唆を提示する予定である。
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