本年度は、2つの調査を行い長期研修の実態と自治体間の差違を検討した。 第1に、67都道府県・政令指定都市が公開している教員研修関連資料(教員研修体系や教員研修関連予算資料など)を収集・分析し、長期研修の実施状況に関する自治体間の差異について検討した。派遣者数や研修事業費を公表している自治体の資料から、その推移を分析した結果、①派遣者数が一定数で推移あるいは微減傾向にある自治体、②予算規模を拡大しており長期研修に積極的な自治体、③教員研修費全体の規模は拡大しているが長期研修事業を縮小している自治体、④派遣者数の人数は減少傾向にあるが、体育・保健体育に関わる派遣者数は一定数で推移している自治体の存在が示された。 第2の調査では以上の自治体間差異を踏まえて制度の内容・実施状況を明らかにするため、都道府県・政令指定都市教育委員会に対する質問紙調査を実施した。調査の結果、教師が自由に研修先を選ぶことのできる自治体は限られていること、多くの自治体が「教職経験年数」と「校長・教育委員会からの推薦」を条件としていること、参加者には事前説明会と研修中の報告、事後報告書の作成・提出が義務付けられていることが明らかになった。 研究期間全体の成果として、長期研修は越境経験を通じた主体的な学習環境が長期的に維持されることで、体育教師の飛躍的な成長をもたらすことが明らかになった。だが一方で、運動部活動指導からの離脱をはじめ、現場から離れること自体によって生じる変化への意識が、体育教師の積極的参加を阻害している状況も明らかになった。体育教師の学びと成長を促すためには、長期研修によって生じる短期的なコストに対する意識を長期的なベネフィットに向かわせること、また、長期研修に参加した教員の経験や成果(知識)を学校現場に還元・還流させることが、学校および教育委員会における研修経営上の課題となることが示唆された。
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