本研究は、これまでに実施してきた左右手一側または両側手を同時に用いた目標到達運動における刺激と反応(時間と正確性要素)の対応性の成果を踏まえ、必要ならば課題提示条件を変えて追加実験を実施し、腕目標運動の左右差が生じる心理的メカニズムを総合的に検討、考察したものである。 昨年度までに、左/右視野に1標的ずつ提示して左/右どちらか一側手反応と両側手同時反応の検討や標的の大きさや提示位置の違いによる検討をした。その結果、一側手反応と両側手同時反応の結果が異なり、一側手反応では刺激-反応の対応性をほぼ支持したが両側同時反応では支持しなかった。また、時間要因の刺激-反応の対応性は比較的強固であるが、正確性については標的の大きさや提示位置の違いによる対応性への影響は支持しなかった。 そこで、今年度は提示後に標的を移動させる試行を加えて移動させない条件との比較を行い、標的追従の修正動作による刺激―反応の対応性への影響や標的移動試行を加えることによる標的固定条件の対応性への影響を検討した。標的追従の修正動作による刺激―反応の対応性への影響は、時間要因、正確性要因ともに刺激-反応の対応性は観察できず標的移動の影響も確認できなかった。標的移動試行を加えることによる標的固定条件の対応性の分析では,時間要因については、動作時間と反応時間において先行報告にみられた対応性傾向が観察された。また、先行報告ではほとんどみられなかった正確性要因については、x軸方向の変動誤差(VEx)に刺激-反応の対応性傾向が得られた。これらの結果は、標的移動試行が標的固定条件での目標到達運動の無意識的な制御に影響する可能性を示唆していると考えられる。今後、明確に意識レベルには上がってこない実験条件を整えて検討する必要があると考える。
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