平成28年度は,2つの実験を実施した. ①脳波計測により,錯覚性の身体所有感を生じた他者(モデル)の手の運動観察が被験者の運動システムを活性化するかを調べた.本実験では,眼前のモデルの手と視覚遮断された被験者の手が同時(同期条件)もしくは交互(非同期条件)にブラシで撫でられた.この視触覚刺激中,モデルの手は時々大きく開いた.この事象(行為観察)に伴うμ波抑制(脳波)を運動システム活性化の指標とした.被験者は,同期条件でのみモデルの手に対する身体所有感を報告した.行為観察中,被験者の手指に不随意な動きが生じた.この発生率は同期条件の方が非同期条件よりも高く,試行回数と伴に上昇した.行為観察に伴うμ波抑制は,非同期条件に比べて同期条件の方が強く,持続時間も長かった.さらに,μ波抑制の大きさは身体所有感の強さと有意に相関した.本成果は,義手や仮想手に対する身体所有感の客観的評価や行為観察を利用した運動回復のリハビリに寄与すると考える. ②クラウド型virtual reality (VR)システムSIGVerseを用いた心理実験を実施した.VR内で実際と長さが異なる腕(2倍あるいは2分の1)を持ったavatarを操作してもらい,avatarに対し身体所有感を生じること,このときavatarの腕の長さに応じたproprioceptive drift(身体表象の変化)が生じることを観察した.この結果は,没入型VRシステムの有効性を示している. 研究期間全体を通して,バーチャルハンド錯覚やラバーハンド錯覚などの身体錯覚を用いて身体性自己意識(運動主体感・身体保持感)と身体表象の関連性を明らかに出来た.今後はそれらの脳内メカニズムを明らかにする予定である.
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