研究課題/領域番号 |
25350786
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
水上 博司 日本大学, 文理学部, 教授 (90242924)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 総合型地域スポーツクラブ / 公益財団法人日本体育協会 / 公共圏 / 市民社会論 / 新しい社会運動論 / ラディカル・デモクラシー論 / NPO / アソシエーション |
研究実績の概要 |
本年度は公益財団法人日本体育協会の「外部」において,総合型地域スポーツクラブの育成支援を担ったスポーツNPOの実践を取り上げ,このスポーツNPOが創出した公共圏とは,どのような意味を持つのかを明らかした。本研究で取り上げたスポーツNPOは、総合型地域スポーツクラブの育成を支援する「中間支援ネットワークNPO」である。いわば政治や経済から独立したNPO法人型のアソシエーションは、人々の自己表出を制約することなく、共通の関心でつなげる自立的組織の役割を果たす仲介的領域の社会空間である。 本研究では、こうしたNPO法人型アソシエーションが果たした役割を1998(平成10)年から2006(平成18)年までの約9年間におよぶ事業内容とネットコミュニティ内の言説空間の2つの領域に着目して、この領域から創出された公共圏の意義を論じた。なお,分析に際しては,市民社会論の理論的・方法論的フレームを提唱したメルッチの「新しい社会運動論」とラクラウとムフの「ラディカル・デモクラシー論」にもとづいて公共圏の特徴を描き出した。 その結果、中間支援ネットワークNPOを通じて、スポーツ実践者らが政治や経済、地域や職域から自立した立場から自由な意思の表出を可能にしていたことがわかった.またこうした意思は中間支援ネットワークNPOの諸事業を通じて、数多くの人々に等価的に連鎖していくプロセスを確認することができた。さらに、このようなプロセスは、同時にスポーツ実践者らの私的な意思から公的な意思へ転換していく可能性をもっていることが明らかになった。以上のような考察を受けて,本研究が明らかにしたスポーツの公共圏は、既存のスポーツ政策の立案過程やスポーツ組織の再編プロセスを主体的に担うことができるスポーツ実践者らが発現でき集合的に結束していく重要な社会空間であることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の最終的な成果は2つの学術論文を公表することである.本年度はそのうちの1つを成果報告することができた。もう1つの学術論文は最終年度を跨いで平成29年度に成果報告する予定である。 なお、本研究が対象としている中間支援ネットワークNPO(アソシエーション)は、その対象期間が約20年間におよぶ実践であり、その質的データは膨大である。さらに、このアソシエーションを取り巻く、さまざまな民間スポーツ組織との連携や協働の意味を解釈する必要があるため合わせて民間スポーツ組織の質的データを収集・整理する必要がある。現在、そうしたデータの収集・整理に注力している段階である。さらに、学術論文として成果報告をする際の論点を明確にする必要があるため社会学的な概念や分析視点の探索・検討も行っている。平成30年度以降にも継続的な研究成果が公表できるように準備を進めており、概ね順調に研究は進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも記してきたが,本研究課題をさらに探求していくためには,研究対象としているアソシエーション(中間支援ネットワークNPO)や国内のさまざまな民間スポーツ組織の質的データを収集・整理しなければならない.こうした質的データの整理とその分析を行いながら,これらのデータから読み取れる論点を明確にするための社会学的な分析フレームを構築する必要がある.今後の研究の推進にあたっては,対象から得られる膨大なデータを学術論文として成果報告するための明確な論点をあらかじめ明らかにすること.そして,得られる膨大なデータのうち,どのデータをどのような根拠として活用するのかをしっかりと見極めて着実に成果を公表したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
学術論文を公表するための経費としてとくに英文抄録のネイティブチェックなどの翻訳料経費に充てるためである.
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次年度使用額の使用計画 |
謝礼の経費に充てる予定である.
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