本研究の目的は、右半身・左半身に器質的・機能的差を有している競技者を対象に、競技者が発揮しているパワーを用いた漕ぎ方の定量的評価システムの開発である。 本研究で開発したトルク及び角速度が計測可能な後輪では、計測されるトルクが大きくなると、トルク波形の基線が階段状に変化するという課題があった。我々は電子回路に問題があると考え、昨年度から本年度にかけて、電子回路の修正を主目的に2次試作を実施した。2次試作品では、静的加重を行っても基線の階段状変化は生じなかった。しかし、競技者が実際に漕ぐと階段状の変化が生じ、最終的には意味のある信号が計測されなくなった。検討の結果、ハンドリムと後輪の接合方法が原因であると推察されたが、研究期間内での解決には至らなかった。 そのため、トルクではなく、計測された角速度及び角速度から算出した角加速度の積を、左右の後輪毎に求め、その比を評価指標として用いることを考案した。この評価指標は、左右の後輪の慣性モーメントが同じという仮定の下では、被験者が発揮したパワーの比となる。以下、疑似パワー比とする。 疑似パワー比の有用性を確認するため、漕ぎ方に左右差が生じていると自身が感じている2名の競技者を対象に、ローラ台で静止した状態から被験者自身の最高速度まで加速し、最高速度を維持させたときの後輪及びローラの角速度を計測した。疑似パワー比の算出には、左右の後輪が独立して回転できなければならないため、本研究とは異なる研究で、我々が開発した左右の後輪が独立して回転できるローラ台を用いた。 計測された疑似パワー比は両名ともに1前後であり、漕ぎ方の出力であるパワーには、競技者が考えているほどの左右差が見られなかった。しかし、片側のみにハンドリムのキャッチミスが生じた計測例では、疑似パワー比が大きく変動した。このことから、漕ぎ方の評価に疑似パワー比が有用であることが示された。
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