研究課題
昨年度の結果より、レジスタンス運動のモデルとしてメカニカルストレス(ストレッチ)を細胞伸展装置により細胞に負荷すると、タンパク質合成促進作用の指標となるp70 S6 kinase (p70S6K)のリン酸化を有意に上昇させることが明らかとなった。そこで、メカニカルストレスを負荷した細胞にタンパク質合成促進作用を有するアミノ酸であるロイシンを添加しその影響を検討した。マウス筋芽由来の培養細胞であるC2C12細胞をシリコンチャンバー上でコンフルエントまで増殖させ、その後分化誘導培地で4~5日間培養し、多核の筋管細胞に分化させた。伸展刺激開始90分前にロイシンを含まないDMEM培地に交換し、培養細胞伸展装置を用いて一軸方向に伸展刺激(伸展度15%、1伸縮/秒)を4時間にわたって加えた。伸展刺激直後に対照群および伸展刺激群に2 mMロイシンを培地に添加し、45分後に細胞を回収して分析に供した。4時間の伸展刺激直後にはp70S6Kのリン酸化が有意に上昇したが、その後の安静4時間後には対照群と同等になった。ロイシン添加により対照群および伸展刺激群ともにp70S6Kのリン酸化が上昇したが、その上昇の程度は伸展刺激群で有意に高値を示した。さらに、ロイシンの細胞内取り込みに関わるL-type amino acid transporter (LAT1)のタンパク量は対照群に比して伸展刺激群で有意に高値を認めた。siRNAを導入し、LAT1の遺伝子発現を約50%に抑制した細胞では、ロイシン添加によるp70S6Kのリン酸化の上昇が抑制された。また、LAT1 siRNA導入細胞では伸展刺激後のロイシン添加によるp70S6Kのリン酸化上昇も抑制された。以上の結果より、伸展刺激はC2C12細胞のLAT1の発現を上昇させることによって、ロイシンによるタンパク質合成促進作用を増強する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
メカニカルストレス負荷後のロイシン添加がタンパク合成を高めるメカニズムを一部明らかにすることができた。その効果はメカニカルストレス直後のみならず、数時間後においても有効であることは興味深い知見である。siRNAによる遺伝子ノックダウン実験についてもほぼ計画通りに進行し、目的遺伝子の発現を約50%抑制することができた。アミノ酸輸送体LAT1のノックダウンはメカニカルストレスによるタンパク質合成促進作用を抑制したことから、レジスタンス運動に対する骨格筋細胞の適応機序を分子レベルで明らかにした。一方、低エネルギーストレスの影響についてはさらなる検討が必要である。すなわち、ストレッチおよび電気刺激が細胞内の低エネルギー状態の指標であるAMPKαのリン酸化を高めることは確認しているが、PGC-1をはじめ低エネルギー依存的に誘導される遺伝子発現が十分に伴っていないことがデータとして得られた。
低エネルギーストレスの負荷方法を検討し、前述した低エネルギー依存的に誘導される遺伝子発現が伴うモデルを確立する。続いてメカニカルストレスや低エネルギーストレスは様々な遺伝子の発現を上昇もしくは低下させると考えられことから、DNAマイクロアレイによる網羅的解析を行いその影響について解析を進める。平成27年度は当研究の最終年度となるため、培養細胞系で得た知見を動物実験で確認・評価する研究を推進していく。培養細胞系の実験ではホルモンや神経系の関与を除外することができたが、個体がメカニカルストレスや低エネルギーストレスにさらされた場合の反応を検討し、培養細胞系での研究結果と比較することにより、本研究の意義を確認する。得られた研究結果は国内外の学会および専門誌で公表する。
平成26年12月1日、研究代表者の所属機関の変更が決まった。変更後の所属機関において当研究課題を継続するための分析機器のレンタル契約を結ぶ必要が生じ、実験計画と研究費支出の変更を行ったため。
実験計画を一部変更し、研究計画の実行に必要な分析機器のレンタル料に次年度使用額を支出する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
J. Physiol. Sci.
巻: 64 (5) ページ: 365-375
10.1007/s12576-014-0328-5