研究課題/領域番号 |
25350815
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
船瀬 広三 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40173512)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 経頭蓋磁気刺激 / 末梢神経刺激 / 一次運動野 / 興奮性 / 運動パフォーマンス |
研究実績の概要 |
初年度(25年度)に実施した,立位でのボールリフティング(ball lifting task: BL-task)熟練者と未熟練者を対象とした長期トレーニングによる可塑性の存在確認に関する実験については,BL-taskの熟練者は未熟練者に比較して,足関節角度調節に関与する前脛骨筋支配の一次運動野(primary motor cortex: M1)の安静時興奮性が増大しており,その背景メカニズムと考えられる短潜時及び長潜時皮質内抑制回路が脱抑制を示すことを明らかにした.26年度はさらに実験を継続し,足関節角度調節動作を用いた100試行の視覚追従課題を学習させ,被験者によって個人差のある運動学習の獲得段階とM1の興奮性変化に関連性があることを明らかにした.即ち,運動学習の早い被験者はその後の学習保持試行が多くなりM1の興奮性は増大するのに対して,運動学習の遅い被験者はその後の学習保持施行が少なくM1の興奮性は変化しないことを見出した.これらの結果は,M1はuse-dependentにその興奮性が調節されることを示しており,現在国際誌に投稿中である.また,運動学習には上位運動中枢であるM1のみが関与しているわけではなく,M1からの下行性運動指令を骨格筋に伝える脊髄運動中枢の関与も重要となることから,随意運動指令が脊髄運動ニューロン(motoneuron: MN)及びIa 介在ニューロン(Ia interneuron: IaN)に到達する時間タイミングを考慮した末梢神経刺激による筋紡錘入力を操作することで,MN及びIaNにおける可塑性について検討した.その結果,拮抗筋からの歩行周期を模したバーストパターンを持つIa求心性入力により誘引されるIaNの興奮性変化はM1の下行性指令によって影響を受けることが示された.この結果は,既に原著論文として国際誌に掲載されている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
26年度に予定していた運動学習における小脳-M1抑制(cerebellum-brain inhibition: CBI)については,他の実験に時間を要したことから実施には至らなかった.最終年度となる27年度には,本研究課題の中核分となる非侵襲的脳刺激介入による運動パフォーマンスの変化に関する実験を実施することにしており,その中でCBIに関する実験を組み込めるか否かについて再度検討することにしている.
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる27年度はこれまでの実験に明らかとなったM1及び脊髄反射回路の可塑性誘引に関する知見にもとづいて,非侵襲的脳刺激介入による運動パフォーマンスの変化に関する実験を実施する.採用する非侵襲的脳刺激法は末梢神経電気刺激(electrical stimulation: ES)-経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation: TMS)の組合せによるpaired associative stimulation(PAS)を採用する.ES-TMS時間間隔はM1の興奮性増大を誘引するとされる25msとする.被験筋は右手第1背側骨間筋(first dorsal interosseous: FDI)とし,0.2ms幅の矩形波を右手首関節部で尺骨神経に知覚閾値の3倍の強度で与える.TMSは左大脳半球のFDI試適部位に与え,FDIから約1mV振幅の運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)を誘発する.これらの刺激を組み合わせたPASを0.2Hzで180回(15分間),安静状態の被験者に与え,M1の可塑性を誘発し,その前後の上運動パフォーマンス及びMEPの変化を観察する.なお,対象条件としてES-TMS時間間隔100msも実施する.被験者10名程度を予定しており,クロスオーバーデザインにより実験を行う.観察する運動パフォーマンス指標としては,最大随意収縮強度による3sの示指外転及び聴覚刺激に対する示指外転時のEMG反応時間を記録し,MEP振幅変化と併せてPAS介入効果を検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由としては,雇用を計画していた大学院生1名が日本学術振興会特別研究員に採用され,予定していた雇用費用及び旅費が不要となったためである.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度も新たに大学院1名が日本学術振興会特別研究員に採用されたので,雇用費用を見直し行うとともに,若干進行が遅れている実験計画を軌道に戻し,消耗品,その他項目を増額する予定である.
|