研究課題/領域番号 |
25350816
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長谷川 博 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (70314713)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 持久的運動 / 体温 / ドーパミン / カフェイン |
研究実績の概要 |
脳内ドーパミンを修飾した際の持久的運動能力,体温調節反応及び神経伝達物質の変動を観察し,運動パフォーマンスと体温調節機構における視床下部内のドーパミンの役割を明らかにすることを目的とした。 テレメトリー法による腹腔温,脳内マイクロダイアリシス-HPLC法による体温調節中枢(視索前野・前視床下部:PO/AH)の神経伝達物質,代謝測定法を用いた酸素摂取量(熱産生量)及び尾部皮膚温(熱放散量)を連続的かつ同時に測定した。脳内ドーパミン放出を修飾するため,①ドーパミンD1受容体拮抗薬(SCH23390),②カフェイン(10mg/kg),③SCH23390及びカフェインを腹腔内に投与した。ドーパミンD1受容体拮抗薬の脳室内投与により,ラットトレッドミル運動中におけるPO/AHのドーパミン放出量,熱放散反応,運動継続時間は有意に低下した。カフェインの腹腔内投与により,持久的運動能力が有意に向上し,その際にPO/AHのドーパミン放出量が有意に増大すること,PO/AHのセロトニン及びノルアドレナリンの変動には影響がないこと,運動中の熱産生量が増大し,腹腔温が過度に上昇することを観察した。ドーパミンD1受容体拮抗薬の腹腔内投与後にカフェインを投与しても,PO/AHのドーパミン放出量及び運動能力は改善されなかった。 以上の結果より,持久的運動能力の向上及び体温調節反応には視床下部におけるドーパミンが関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳内ドーパミンを修飾した際の運動能力,体温調節反応及び神経伝達物質の変動を観察し,運動能力向上における視床下部内ドーパミンの役割を明らかにすることを目的とした。ドーパミンD1受容体拮抗薬であるSCH23390の薬理効果について,その濃度及び投与方法を詳細に検討してから運動実験を実施した。また,SCH23390及びカフェインを同時に投与した実験では当初予想していなかった測定上の問題があり,予定していた実験のすべてを遂行することはできなかった。その後実験プロトコルを変更して運動実験をある程度行うことはできたが,脳室内投与やマイクロダイアリスを用いた限局された脳部位における神経伝達物質の修飾を十分行うことができなかった。これらは投稿中の論文において差読者からの指摘を受けた。したがって今後は,インパクトのある国際雑誌に論文を投稿するため,さらに例数を増やしたり,薬物の投与または還流方法を検討するなどの必要性がある。以上のことから,これまでの研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
アデノシン受容体を促進または抑制する薬品を投与し,運動能力と体温調節機能との関連を検討し,カフェインによる運動能力の向上に脳内のアデノシン受容体が関与しているのかを明らかにする。 実験動物は,Wistar系雄ラット(実験時320-350g)を用いる。外科手術はラットの腹腔内にテレメトリーを埋込,マイクロダイアリシスのためのガイドカニューラを体温調節中枢である視索前野・前視床下部(PO/AH)に挿入,薬物投与のためのガイドカニューラを側脳室に挿入する。5日間以上の回復期間を観察し,その後トレッドミル運動に5日間慣れさせる。実験当日,小動物用麻酔装置を用いて,ガイドカニューラの代わりにPO/AHにマイクロダイアリスプローブを,側脳室にインジェクションプローブを挿入する。プローブ挿入2時間後からテレメトリーを用いて腹腔内温,呼吸代謝量測定装置を用いて酸素消費量,サーミスタープローブを用いて尾部皮膚温を同時かつ連続的に測定し,ベースラインを算出する。オンライン液体クロマトグラフィーを用いて,ドーパミン,ノルアドレナリン及びセロトニンの変動を同時にリアルタイムで測定し,定量する。運動条件は,トレッドミル運動を用い,速度: 18 m/min,傾斜: 5%に設定する。環境条件は,暑熱環境23℃または30℃に設定する。投与方法は,インフュージョンポンプを用い側脳室に投与,またはシリンジを用いて腹腔内に投与する。薬理条件は,Ringer液(コントロール条件),非選択性アデノシン受容体作動薬(アデノシン-5'-N-エチルカルボキサミド:NECA),アデノシン受容体A1作動薬(CPA),アデノシン受容体A2作動薬(CGS21680)を予定している。 得られた研究成果を国内及び国際学会で発表を行い,さらにこれらの成果を学術論文としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
テレメトリー及びマイクロダイアリシス実験の消耗品の金額に誤差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
テレメトリーの電池切れを予測することは難しいが,計画的に予算を執行する。
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