研究実績の概要 |
[目的] 昨年度の研究結果より,高強度運動の30分後にグルココルチコイド受容体の拮抗剤であるmifepristoneを腹腔内投与すると,本来,高強度運動の翌日に観察される海馬での神経新生の増加が消失した。この結果より,一回の高強度運動後に生ずる海馬での神経新生の増加には運動により増加するグルココルチコイドが関係することが明らかになった.神経新生の増加をもたらす要因としては海馬の脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)が知られている.そこで,本年度は高強度運動後の海馬での神経新生の増加にBDNFが関係しているか否かについて検討した. [実験条件] ICR 雄マウスを(1)グルココルチコイド受容体(Glucocorticoid Receptor:GR)拮抗薬(Mifepristone),(2)vehicle,(3)GR拮抗薬+運動、(4)vehicle+運動の4 群に分けた.(3)と(4)群のマウスにはvehicle またはGR拮抗剤を腹腔内投与し,その後,疲労困憊に至るトレッドミル走を負荷した. (1)と(2)群のマウスもvehicle またはGR拮抗剤を腹腔内投与した.全群マウスとも薬剤投与24時間後にマウスを断頭して海馬を採取し,海馬から市販のRNA 抽出キットを用いてRNA を抽出し,抽出したRNA用いてリアルタイムPCR 法にてBDNF mRNA の定量を行った. [結果] 運動後24時間後の海馬のBDNF mRNAは1回の高強度運動負荷により増加し,この増加は運動前のGR拮抗剤投与により消去される傾向がみられたが,薬剤投与による有意な差は認めらなかった.この結果より,1回の高強度運動により引き起こされる海馬でのBDNF mRNAの増加にグルココルチコイドが関係している可能性は認められなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,一回の高強度運動による海馬での神経新生の増加に伴い海馬でのBDNF mRNAが増加して,その増加がグルココルチコイド受容体を阻害することにより抑制される結果を期待した.しかし,結果は予想とは異なるものであった.この原因の一つにBDNF mRNAを測定した運動後の時間が問題であった可能性が考えられる.そこで,今年度は運動後にBDNF mRNAを測定する時間帯を運動直後~運動後24時間の間での幾つかの時間でBDNF mRNAを測定することを試みる.そして, BDNF mRNAの期待されうる変化の認められた時間帯でのBDNF 発現のエピジェネティクな調節機構について検討する.
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