本研究の目的は、アキレス腱の屈曲点が出現するメカニズムと屈曲点がもつ機能的意義を明らかにすることである。最終年度である平成28年度の実績として、下記の原著論文を執筆し、国際誌に投稿した。
この論文では、まず磁気共鳴画像法を用いて、アキレス腱が屈曲する場所の同定を行った。その結果、足関節底屈位においてアキレス腱が腹側方向に曲がることが確認された。最も曲率が大きかった場所は、Kager’s fat padという脂肪の塊の場所と一致していた。このKager’s fat padはヒラメ筋と踵骨の間に挟まれている。踵骨に近い部分でも大きな曲率が見られたが、これは踵骨の形状に起因していると考えられた。続いて、皮膚、Kager’s fat pad、およびヒラメ筋を剥離した場合、アキレス腱の曲率がどのように変化するのかを調べた。この実験では、関節の柔軟性が生存の関節と同様レベルであるThiel法未固定遺体を用いて検討した。その結果、皮膚、Kager’s fat pad、およびヒラメ筋を剥離しても、アキレス腱の腹側への曲率は保持されたままであった。これらのことから、アキレス腱の屈曲に対して、皮膚、Kager’s fat pad、およびヒラメ筋による拘束は無関係であることが示された。これらの結果を受けて、アキレス腱は薄いので、腹背側への曲げ剛性が高いために、アキレス腱の屈曲が起こっていることが伺える。この可能性は、三次元有限要素による筋骨格モデルによって確認された。これらの一連の実験とモデルでの検証の結果、アキレス腱の屈曲は、アキレス腱自体の解剖学的特性によって引き起こされていることが明らかになった。
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