研究課題/領域番号 |
25350865
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
高橋 ひとみ 桃山学院大学, 法学部, 教授 (40149787)
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研究分担者 |
衞藤 隆 東京大学, 教育学研究科(研究院), 名誉教授 (20143464)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 情報化社会 / 弱視 / 近見視力検査 / 幼稚園視力検査 / 保育所視力検査 / 絵本 / 視標提示パネル / 学びのセーフティネット |
研究実績の概要 |
個人差はあるが、6歳頃には視機能の発達は終了する。6歳頃までに眼の異常や疾病を発見し対処しなければ、眼鏡を装用しても一定以上の視力はでない。3歳で視力検査を受け、眼の異状や疾病を発見し治療するなら、小学校入学までに視力の改善は期待できる。すべての子どもが「視力不良による負担」なく、公平に義務教育を享受する社会を目指している。日本眼科医会調査報告によると、幼稚園・保育所、三歳児健康診査会場での視力検査実施率は低く、弱視救済の「最後の砦」と言われる就学時健康診断の視力検査実施率も自治体によって大きく異なり、未実施の政令指定都市もあった。法律で義務づけられているにもかかわらず、教育・保育現場および幼児健康診査会場で視力検査を実施しない理由を調査した。その結果、幼児の視力検査は「時間・労力がかかる」「結果に信憑性がない」等が明らかになった。その理由として、幼児は①「ランドルト環の切れ目」が理解できない②遠見視力検査(5m、2.5m)を行っているから注意集中が困難などが推察された。また、幼児が答えやすい絵視標が使われることが多く、視標の定義に合っていないため精度面での問題が指摘されている。そこで、「ランドルト環の切れ目」を「かじられたドーナツ」に見立て、眼前30cmに提示する簡易近見視力検査方法を考案した。「ランドルト環の切れ目」と「かじられたドーナツ」のイメージ定着のために、絵本『たべたのだあれ』を出版した。さらに、絵本と同じく「たべたのだあれ」クイズ遊びにより視力検査を行うために、視標提示パネルを作成した。そして、幼児が絵本の「たべたのだあれ」クイズ遊びでランドルト環に慣れてから、幼稚園や保育所で視標提示パネルを使って、視力検査を行ってきた。その結果、3歳児の視力検査可能率は約97.9%と高率であり、検査時間も一人約20秒と、信憑性のある視力検査が短時間にできることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法律によって、幼稚園・保育所および三歳児健康診査での視力検査実施は規定されている。機能弱視の成因の中で最も多いのは片眼性屈折異常である。自覚的視力検査が可能になる3歳の視力検査で丁寧な片眼ずつの視力検査を行えば、片眼性弱視を防ぐことができる。しかしながら、幼児の視力検査実施率は低い。そこで、短時間に正確な視力検査を実施するための視力検査方法を考案した。「子どもは近くから見える」ようになり、しかも「近くの方が注意集中はしやすい」。それなら、現行の遠見視力検査より「30cmの距離で実施する」近見視力検査の方が、検査成功の可能性が大きいと考えた。幼児期、「近くがハッキリ見えている」なら視機能面での心配はない。また、幼児の理解を得るために、絵視標が使われることが多いが、絵視標は被検査者の知的要素や視経験の影響が大きく、視力の定義にも則していないため精度に問題がある。ランドルト環は「世界視標として視力の定義に則している」が、幼児の視力検査成功率は低い。そこで、幼児に「ランドルト環の切れ目」=「ドーナツのかじられた箇所」のイメージを持たせるために、絵本『たべたのだあれ』を出版した。さらに、視力検査でも「たべたのだあれ」クイズにより「ランドルト環の切れ目」を答えられるように視標提示パネルを医療機器メーカ「はんだや」で作成した。幼児が絵本でクイズ遊びを楽しめるように無料配布し、ランドルト環に慣れてから、幼稚園・保育所で視力検査を受ける。この方法により、幼稚園と保育所で3歳児の視力検査を実施してきた。検査成功率は約97.9%と、どの先行研究よりも高率で、検査時間は一人約20秒と、信憑性のある視力検査が短時間に可能なことを実証した。啓発活動により、「3歳からできる視力検査」を全国の幼稚園・保育所、三歳児健康診査において実施するなら、視力不良による負担なく義務教育を開始できる子どもが増加する。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究「小児の視覚発達の評価法に関する研究」(丸尾敏夫他、平成3年度厚生省心身障害研究、1992)によると、愛知県と埼玉県で実施した3歳児の視力検査の検査可能率は、ランドルト環の場合は約76.4%、絵視標の場合は約64.3%(不可読絵視標除外では約77%)と報告している。我々の考案した「3歳からできる視力検査」の検査可能率は、有意に高率であった(p<0.05)。平成26年度、絵本と視標提示パネルによる「3歳からできる視力検査」を実施した園は10園であった。全国に幼稚園は約20,000園、保育所は約23,000所ある。3歳児は約1,000,000人いる。今後、視力検査の実施園を増やし、可能な限り多くの幼稚園・保育所で視力検査を実施することにより、弱視の幼児を救済し、「視力不良による負担なく」すべての子どもが公平に義務教育を享受できる社会を目指している。そのため、啓発活動により「3歳からできる視力検査」なら「短時間に信憑性がある視力検査が可能」であることを広く知ってもらい、実施につなげたい。さいわい、フレーベル館の子ども環境開発センターがFDS商品として、「3才からできる視力検査(30cm)キット」を作成販売予定(平成27年6月)であり、全国展開が望める。そして、発見した視力不良者の精密検査結果から、「視標提示パネルによる近見視力検査の意義と有効性」を検証していきたい。現行の視力検査練習用としての絵本では、家族にとっても幼児にとっても、「覚えさせなければ」「覚えなければ」と、視力検査前の負担になることが懸念される。幼稚園や保育所、家の本棚に置いて、幼児がいつでも「たべたのだあれ」クイズ遊びを楽しめる絵本出版を望んでいる。これなら、日常のクイズ遊びから幼児の視力の変化に気づくことも期待できる。この絵本出版もフレーベル館の協力により、全国の幼稚園や保育所の本棚に並ぶ日は近い。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月2日~3月5日の東京出張旅費が92,860円であったが、平成26年度の残額が65,380円のため不足するので、平成27年度に全額を請求することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年3月2日~3月5日の東京出張旅費が92,860円であった。しかしながら、平成26年度残額が65,380円のため不足することが判明した。そこで、平成27年度に全額を請求することにした。すなわち、すでに使用済み(2015年4月1日現在)である。
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