本研究は、組織酸素分圧の増加が骨の石灰化促進、および骨折治癒促進を引き起こすかを検討することを目的としている。これまでの研究で、実験動物のマウスを高気圧高酸素に暴露(2絶対気圧、90%酸素環境下で90分間を週5回)すると、骨の石灰化速度が上昇することを明らかにした。また、マウスの大腿骨骨折モデルを作製し、このモデルを利用して、高気圧高酸素暴露の骨折治癒への効果を検討した。その結果、X線画像による診断でも、骨の破断実験による力学的測定においても、骨折治癒が促進されることを明らかにした。 高気圧高酸素暴露では、生体内酸素分圧が上昇することから、生体への酸化障害も懸念されるが、酸化障害を検討したところ、非暴露の対象群と比較し、統計的に有意な酸化障害は認められなかった。また、骨折治癒が促進していることから、骨の代謝回転が向上していると考えられ、そのことが生体内のカルシウム濃度のホメオスタシスに何らかの影響を及ぼすことも考えられる。そこで、血中のカルシウム濃度を測定したが、血中カルシウム濃度は実験期間中、ほぼ一定に維持されており、高気圧高酸素暴露は血中カルシウムのホメオスタシスには悪影響を及ぼさないことも明らかにした。 以上の結果から、今回用いた高気圧高酸素環境は骨折治癒促進に効果的であると考えられた。
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