研究課題/領域番号 |
25350893
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
小原 一男 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (60117611)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 糖取り込み / ストレッチ / リアノジン受容体 / ニトロシル化 / NO / カルシウム / GLUT4 |
研究実績の概要 |
メタボリックシンドロームの改善には運動療法が極めて重要な位置を占める。一般的に運動の際に骨格筋細胞にはエネルギー消費に加えて、「受動的ストレッチ刺激」も加わる。本研究では受動的ストレッチによる骨格筋の糖取り込み機構について検討した。 マウスヒラメ筋に生体長から生体長の120%になるよう1 Hzのストレッチ刺激を与えると、糖取り込みの増加が認められた。この糖取り込みの増加は、筋小胞体(SR)からのカルシウム遊離を抑制するダントロレンにより抑制された。また、ストレッチ誘発性糖取り込みは calcium/calmodulin dependent protein kinase II (CaMKII)の阻害薬KN-93により抑制されたが、EGTAによる細胞外カルシウム除去やインスリンでは影響されなかった。さらに、ストレッチ誘発性糖取り込みはNO合成酵素(NOS)阻害薬 NG-nitro-L-arginine (L-NNA) により抑制された。また、ストレッチ刺激によりSRのリアノジン受容体 (RyR) のニトロシル化が亢進し、このニトロシル化の亢進はダントロレン存在下でも認められたが、L-NNAにより抑制された。一方、マウス骨格筋由来培養筋芽細胞株であるC2C12細胞を分化させた多核筋管細胞にストレッチ刺激を加えると、糖輸送担体GLUT4の細胞質から細胞膜への移行が認められた。また、このGLUT4の膜への移行はL-NNA、ダントロレンおよびKN-93で抑制された。 以上の結果より、骨格筋において受動的ストレッチ刺激はNOによるRyRのニトロシル化を介してSRからのカルシウム遊離を引き起こすこと、また、この遊離カルシウムによりCaMKIIが活性化されGLUT4の膜への移行、糖取り込みが亢進することが示唆された。さらに、この機構はインスリンによる糖取り込み機構とは異なると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の反省に基づき、今年度(平成26年度)は自作の伸展刺激装置を用いて、受動的ストレッチ(ストレッチ)刺激によるマウスヒラメ筋の糖取り込みの測定方法を換えた。その際、2-deoxy-D-[3H]glucose(2-DG)のラジオアイソトープを用いての検討から、できるだけ蛍光標識グルコース2-NBDGを用いた検討に変更した。しかし、当初は両者により得られた測定結果の間にばらつきが大きく、また、昨年度の2-DGを用いた結果との整合性がとれず、くり返し実験を行うことによる実験条件の確立に思ったよりも手間取ってしまった。さらに、マウス骨格筋由来培養筋芽細胞株であるC2C12細胞を分化させた多核筋管細胞にストレッチ刺激を与えると、シャーレの底から外れてしまう細胞が多く、糖取り込み測定ができなくなる場合が多く、培養条件やストレッチの条件を設定するのに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(平成26年度)において、以前より用いていた2-DGのラジオアイソトープよる糖取り込み測定から、蛍光標識グルコース2-NBDGを用い方法に徐々に切り替えてきたが、その測定条件が確立されつつある。したがって、来年度はストレッチ刺激による糖取り込みをリアルタイムでの測定を試みる。また、細胞内NOおよびカルシウム濃度変化をNO蛍光指示薬DAF-FM DAおよびカルシウム蛍光指示薬Fura-2 AMを用いて測定することにより、NOおよびカルシウムの糖取り込みへの関与を検討する。さらに、ストレッチ刺激を受容するメカノセンサーの同定やストレッチ刺激により活性化するNO合成酵素(NOS)のアイソフォーム(nNOS, eNOS, iNOS)の同定を行う。また、2型糖尿病モデルマウスの骨格筋用いて、ストレッチ刺激によるGLUT4の膜への移行や糖取り込みを解析し、正常マウスと比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の試薬代の一部として使用する予定だったが、年度内に試薬が納入されなかったこと、また、最終残高が非常に少額で、この残高のみでは希望の試薬等の物品購入ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は、来年度の試薬購入費の一部として使用予定。
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