糖尿病の予防・改善には運動療法が極めて重要な位置を占める。一般的に運動の際に骨格筋細胞にはエネルギー消費に加えて、「受動的ストレッチ刺激」も加わる。本研究では受動的ストレッチによる骨格筋の糖取り込み機構について検討した。 マウスヒラメ筋に生体長から生体長の120%になるよう1 Hzのストレッチ刺激を与えると、糖取り込みの増加が認められた。この糖取り込みの増加は、インテグリン阻害薬RGDペプチド、筋小胞体(SR)からのカルシウム遊離を抑制するダントロレン、 calcium/calmodulin dependent protein kinase II (CaMKII)の阻害薬KN-93およびNO合成酵素(NOS)阻害薬 NG-nitro-L-arginine (L-NNA)により抑制された。しかし、EGTAによる細胞外カルシウム除去やインスリンでは影響されなかった。また、ストレッチ刺激によりSRのリアノジン受容体 (RyR) のニトロシル化が亢進し、このニトロシル化の亢進はダントロレン存在下でも認められたが、L-NNAにより抑制された。さらに、ストレッチ刺激は糖輸送担体GLUT4の細胞質から細胞膜への移行を促進し、このGLUT4の膜への移行はRGDペプチド、L-NNA、ダントロレンおよびKN-93で抑制された。 以上の結果より、骨格筋において受動的ストレッチ刺激は細胞膜のインテグリンによって感知され細胞内へ伝達されること、また、この伝達された刺激はNOSを活性化しNOを産生することでRyRをニトロシル化してSRからのカルシウム遊離を引き起こすこと、さらに、この遊離カルシウムによりCaMKIIが活性化されGLUT4の膜への移行、糖取り込みが亢進することが示唆された。一方、この受動的ストレッチ刺激による糖取り込み機構はインスリンによる糖取り込み機構とは異なると考えられる。
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