研究課題
本研究では,骨格筋損傷に伴う炎症応答および損傷筋の修復再生過程における免疫制御受容体の機能および制御機構について検討することを目的とし,平成26年度は以下の実験を行った.前年度の結果より,活性化型免疫受容体欠損マウスにおいて損傷筋の再生遅延が観察され,また筋損傷部位に局在するF4/80陽性細胞の分化状態に変化が見られたことから,Cardiotoxin(CTx)による筋損傷後の損傷筋局在F4/80陽性細胞に注目し,細胞数の経時変化についてFACSを用いて解析した.その結果,再生遅延が観察されたDAP12欠損およびFcRγ/DAP12二重欠損マウスでF4/80陽性細胞の細胞浸潤の遅延が観察され,さらにM1,M2両細胞の細胞数も同時点では野生型と比較して30~50%程度減少していた.次に骨格筋損傷部位における液性因子の発現を把握するため,筋損傷のモデル実験において,CTx投与後1,3,5,7,14日後に損傷筋を採取し,損傷筋組織における液性因子(炎症性・抗炎症性サイトカイン,ケモカイン),M1・M2細胞マーカーおよび免疫制御受容体群の遺伝子発現をqPCRにより確認した.その結果,DAP12欠損および二重欠損マウスでは炎症性サイトカイン(IL-1β,IL-6, TNF-α)遺伝子の発現が野生型と比較してCTx投与後1~3日では低値を示し,投与後7~14日では高値を示しており,筋損傷後の再生遅延やF4/80陽性細胞の浸潤パターンの状況と一致する結果であった.これらの結果から骨格筋損傷に伴う炎症応答及び骨格筋の損傷修復・再生制御への活性化型免疫受容体,特にDAP12を介した活性化シグナル関与の可能性が示唆される.
3: やや遅れている
上記結果より,骨格筋の損傷修復・再生過程への活性化型免疫受容体の関与について興味深い知見が得られつつあるが,対象マウスの供給,損傷筋の経時的採取及び遺伝子発現解析のセットアップに時間を要してしまい,当初予定していたin vitroの実験系による解析(細胞分化・増殖,シグナル解析,タンパク発現解析等)がまだ実施されておらず,研究計画は当初予定より若干遅延している.今後の実験計画の進め方を整理し,効率的に研究を推進していきたい.
上記結果をもとに,損傷筋浸潤細胞の制御メカニズムの解明を目的として以下の実験を計画する.1.同定されたF4/80陽性細胞におけるシグナル解析として,骨髄細胞由来培養マクロファージを用いて,損傷筋由来の因子や各種サイトカイン刺激に対するシグナル応答をこれまでに報告されている免疫制御受容体―ITAMモチーフを介するシグナル分子群のリン酸化の状態および細胞内カルシウム流入の変動を中心にウェスタンブロットによるタンパク発現解析,さらには共焦点レーザー顕微鏡を用いた生細胞の画像解析による検討を行う.2.責任細胞の把握と細胞移入実験,欠損遺伝子の遺伝子再構成の実験として,免疫制御受容体を介した骨格筋の修復に関して,欠損マウスへの野生型マウス由来当該細胞の細胞移入による筋損傷修復の機能回復実験を行う.さらに欠損マウス由来の当該細胞へのレトロウィルスベクターを用いた遺伝子再構成による機能回復実験を行い責任受容体の確認実験を行う.
H26年度に当初予定していたin vitroの実験系による解析(細胞分化・増殖,液性因子同定,シグナル解析,タンパク発現解析等)が未実施のため,細胞培養や細胞の分化誘導時に必要となるサイトカイン等の液性因子,試薬,機器,消耗品,またシグナル解析やタンパク発現解析に必要となる試薬,機器,消耗品,抗体等の購入費用が次年度に繰り越されていることが主な理由である.
本研究課題を遂行するために平成27年度に予定している研究計画についての研究費は,平成26年度の繰越金487,438円に平成27年度の1,100,000円の計1,587,438円である.その内訳は,物品費1,437,438円(主に試薬,抗体,プラスチック消耗品,細胞培養関連機器,実験動物の購入費等),旅費100,000円(国内学会旅費および参加費等),人件費・謝金50,000円(論文校正費等)を予定している.
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