骨格筋の損傷修復・再生過程は筋衛星細胞や炎症細胞である好中球やマクロファージ、これら細胞から分泌される多種の細胞や液性因子が筋損傷部位において統合的協調的に関与した事象であるが、その全容は未だ不明な点が多い。本研究では、骨格筋損傷に伴う炎症応答および骨格筋の損傷修復・再生過程における免疫制御受容体を介した制御機構について検討することを目的とした。 これまでに薬理的筋損傷モデルを用いて検討を行ったところ、FcRγ欠損、DAP12欠損およびFcRγ/DAP12二重欠損マウスにおいて損傷筋の再生遅延が観察された。そこで損傷筋における炎症関連遺伝子の発現と浸潤細胞の状況について観察したところ、DAP12欠損および二重欠損マウスでは炎症関連遺伝子の発現が野生型と比較して遅延している状態であった。さらにF4/80陽性細胞の損傷部位への浸潤およびM1/M2極性にも差異が認められた。これらの結果より損傷筋局在細胞の炎症応答やM1/M2分化の詳細について検討するため、野生型及び欠損マウス由来の骨髄細胞より誘導した培養マクロファージを用いLPS刺激後の炎症応答およびM1/M2関連遺伝子の発現をqPCRにより検討した。その結果、DAP12欠損および二重欠損マウスにおいてLPS刺激後の炎症性サイトカイン、M1マーカー、M2マーカー,ケモカインレセプターの発現に顕著な差異が観察された。これらの結果から、損傷筋の再生遅延の原因としてF4/80陽性細胞におけるケモカインレセプターの発現プロファイルの変化が損傷部位への浸潤遅延および局在異常を引き起こし、さらに浸潤細胞の過剰活性化およびM1タイプへの偏向が引き起こされることで損傷筋の修復・再生遅延を引き起こしている可能性が示唆された。
|