研究課題/領域番号 |
25350898
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
犬飼 浩一 杏林大学, 医学部, 准教授 (20333007)
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研究分担者 |
石田 均 杏林大学, 医学部, 教授 (80212893)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖質制限食 / FGF21 / SCD1 |
研究概要 |
初年度研究計画通り、本研究を実施した。C57bl/6j、STZ、KKAyマウス各群に対して、コントロール食(SC食; C:P:F=63:15:22)、中等度糖質制限食(LC食;C:P:F=38:25:37)、高度糖質制限食(SR食; C:P:F=18:45:37)を、6週齢のマウスに16週間カロリーを揃えたペアフィーデングを行い、正常マウスでは糖質比率に反比例する形で体重増加がみられたが、糖尿病マウスでは有意な体重変化は見られなかった。腹腔内糖負荷試験、インスリン感受性試験では、糖質摂取量に反比例してインスリン抵抗性の増大が3系統マウスで認められた。肝臓におけるDNAマイクロアレイにより、FGF21の転写レベル、また血中レベルでの低下が糖質比率に比例して認められた。FGF21はインスリン感受性を増強させ、マウスの寿命延長効果があることが報告されていることから、本結果は、ヒトにおいて糖質制限食が死亡リスクを増加させた結果を一部説明できる。一方、糖質比率に比例してオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸の血中濃度低下が認められ、これは肝臓におけるSCD-1の発現が低下していることが原因と考えられた。SCD-1が糖質制限によって低下することを示したのは今回初めてである。一価不飽和脂肪酸は酸化ストレスを軽減し、抗動脈硬化作用を有することが報告されているので、糖質制限食においてSCD-1の発現低下が観察されたことは、動脈硬化につながる因子として、非常に興味深い。 以上の実験結果より、糖質制限によってインスリン抵抗性が増大し、さらに酸化ストレスの増大や寿命を短縮させるような代謝的変化がもたらされることが証明された。本研究は、糖質制限食の食事療法のデメリットの科学的根拠を示したという意味で、意義のある結果と考える。現在、研究結果をまとめ、論文執筆中であり、さらに、平成26年度、学会発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マウスは、食餌中の成分の変化に応じて(特に高脂肪食)、摂食量に変化がでる可能性が示唆されており、これらの糖質制限食の場合、どのくらい食餌摂取量に変化が出るかを、preliminaryに調査する必要があったが、糖質制限食における摂食量に有意差なく(したがってpair-feedingを行うために、むしろ、糖質制限食マウスにおいて、摂食制限をかけた)、実験は問題なくスムーズに進行し得た。糖質制限食の影響を正常マウス、KKAyマウス(2型糖尿病マウス)、STZマウスの3群において、その表現型を調査するための、糖負荷試験、インスリン感受性試験から、表現型の有意差が得られ、さらに、DNAマイクロアレイによる結果から、インスリン感受性に関与すると考えられるFGF21、SCD-1などの遺伝子発現の変化を新たに発見した。1年目において、これらの多くの結果が得られたことは大きな収穫であり、ここまでの結果を、現在論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、正常マウスや糖尿病モデルマウスを用いて得られた糖質制限食によるこれらの表現型が、動脈硬化がきたしやすいとされるApo-E KOマウスを用いて、実際に、動脈硬化や寿命の低下につながるかどうかを検証する予定である。 従って、本年度は、初年度の結果を踏まえて、当初の研究計画通り、1)遺伝子変異ApoE KOマウスを用い、糖質制限食投与による影響を調べる。動脈硬化の進行度合いを検証するため、Oil red O染色にて、脂質の大動脈壁への沈着の度合いや、酸化ストレス(4-HNE, 8-OHdG)の蓄積を検索する。2)また、新たな実験計画として、ApoE-KOマウスあるいは、糖尿病モデルマウスに、SGLT2阻害薬(本年から、2型糖尿病患者の経口血糖降下薬として新たに登場した内服薬で、尿細管での糖の再吸収を抑制し、糖を対外に放出することで、血糖降下作用を示す)を投与し、その表現型を観察する。SGLT2阻害薬は、血糖が改善し、体重減少につながるものの、糖質を対外に放出することから、糖質制限食と似ている作用をもたらすのではないかという懸念があり、現在、注目されている薬物であるので、我々の得られた糖質制限食での結果と、SGLT2阻害薬投与によって得られた結果とどのように表現型が異なるか(インスリン抵抗性、体重、動脈硬化、酸化ストレスの蓄積など)を比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
犬飼浩一(研究代表者)分の助成金は、完遂いたしましたが、石田均研究分担者への助成金の分担額において、若干の残金が生じてしまいました。非常に少ない金額ですので、次年度に繰り越したいと存じます。 石田均研究分担者への繰り越し金は、石田均実験に関与する消耗品(物品費)に充てることを計画しております。
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