研究実績の概要 |
これまで我々の検討によって証明されている局所的な血流制限の繰り返しによる筋萎縮、筋力低下予防効果に対するメカニズム解明のため、ヒトを対象に筋萎縮、筋力低下モデルである下肢ギプス固定を用いて検討を行った。 心臓・血管系疾患および下肢の傷害を有さない運動習慣のある健常成人男性10名を対象に、下肢にギプスを巻き膝関節と足関節を固定し、移動時の松葉杖の使用を義務付け、下肢への荷重を制限した。対象者を無作為に下肢固定のみ行うコントロール群・下肢固定と血流制限を行う血流制限群の2群に分類した。下肢の血流制限は、駆血帯を用いて、対象者のギプス固定側の大腿基部に200mmHgの圧を加えた。血流制限は5分間とし、3分間の安静をはさんで5セット行い、午前と午後の1日2回毎日実施した。実験期間は14日間とし、実験前・開始から1・3・7・14日後に筋生検を行い、骨格筋タンパク質合成・分解に関わる遺伝子発現量を、定量PCR法を用いて検討した。 その結果、血流制限群ではコントロール群と比べて、骨格筋タンパク分解に関わる骨格筋特異的ユビキチンリガーゼMuRF1 (Muscle RING-Finger Protein-1)の発現量増加が下肢固定後1,7日の時点で抑制されており、MuRF1の転写に関わる転写因子FoxO3(forkhead box O-3)の発現量は下肢固定後1日の時点で発現量の増加が抑制されていた。さらに、骨格筋タンパク合成に関わるp70S6K(Ribosomal Protein S6 Kinase, 70kDa, Polypeptide 1)の発現量が血流制限群では下肢固定後1,7,14日の時点で固定前と比べて有意に増加していたが、コントロール群ではみられなかった。 これらの結果より、繰り返しの血流制限が筋萎縮や筋力低下の抑制を行うメカニズムの一つとして、MuRF1, FoxO3, p70S6Kなどの骨格筋タンパク合成、分解に関わる遺伝子発現量の調節を介している可能性が挙げられた。今後はin vitroの系などを使用して、更なるメカニズムを解明する予定である。
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