研究課題/領域番号 |
25350903
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
千葉 篤彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (40207288)
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研究分担者 |
岡田 隆 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (00242082)
服部 淳彦 東京医科歯科大学, 教養部, 教授 (70183910)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メラトニン / 学習記憶 / 老化 / ニューロン新生 / 酸化ストレス |
研究概要 |
本年度は、2ヵ月齢からD-ガラクトースを7週間連続で皮下投与することによって老化を早めた亜急性老化モデルマウスと、18ヵ月齢の自然老化マウスを併用し、老化が学習記憶機能、脳の酸化ストレス、およびニューロン新生に与える影響と、それに対するメラトニンの効果を調べた。また、亜急性老化モデルの研究上の有用性についても検討した。 亜急性老化モデルでは、D-ガラクトースのかわりに溶媒を皮下投与した対照群と比べて学習記憶機能(非空間記憶および空間記憶)が低下し、また老化の指標として免疫組織化学的および生化学的手法を用いて測定した脳の酸化ストレスは増加した。一方、D-ガラクトースの皮下投与と同期間にメラトニンを飲料水にまぜて与えた群では、与えなかった群に比べ学習記憶機能の低下と酸化ストレスの増加はどちらも有意に抑制された。自然老化群でも、2ヵ月齢から10ヵ月齢まで、あるいは10ヵ月齢から18ヵ月齢までの8ヵ月間、メラトニンを飲料水に混ぜて投与した群では、投与しなかった群に比べて学習記憶機能が改善され、酸化ストレスも低い値を示した。 本研究では、記憶の獲得にはヒトの通常の記憶の獲得の場合と同様に恐怖情動や身体的ストレスを伴わない試験を採用した。このため、本実験で得られたメラトニンの学習記憶機能に対する抗加齢効果から、ヒトの加齢性記憶障害に対するメラトニンの抑制効果が期待できる。また、亜急性老化モデルはそのようなメラトニンの効果を短期間に検証するための有用な動物モデルであるいえる。 ニューロン新生は、自然老化においてはメラトニンを与えた群と与えなかった群では有意な差が見られなかったが、亜急性老化モデルマウスでは、メラトニン投与によって有意に低下した。これらの事実は、メラトニンの学習記憶機能に対する抗加齢効果が、加齢に伴うニューロン新生の低下の抑制を介するものではないことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動実験については順調に進められ、これまでのところ、D-ガラクトースによる亜急性老化および自然老化による学習記憶機能の低下がメラトニン投与によって抑制されるという概ね予想通り結果が得られている。 酸化ストレスは、8-OHdGについては当初の計画通り空間記憶と関連の深い海馬CA1領域と非空間記憶と関連の深い嗅周囲皮質について免疫組織化学的方法によって調べている。一方、MDA、カルボニル化タンパクの蓄積量については、より多角的に脳の酸化ストレスの評価を行うために大脳皮質全体のホモジェネートから生化学的方法により調べている。これらのホモジェネートサンプルはまだサンプル数が十分とは言えず、今後個体数を増やして、より信頼性のあるデータを得る必要がある。 ニューロン新生については当初の計画通り順調に進んでいるが、メラトニン投与がニューロン新生を増加させないという予想に反する興味深いデータが得られている。 海馬下位領域CA1シナプス応答の長期増強(LTP)の大きさを調べる電気生理学的解析については、これまでに自然老化マウスについて行われたが、メラトニン投与群、対照群ともに高頻度刺激によりLTPを誘導すること自体が難しく、思わしい結果が得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、D-ガラクトース投与による亜急性老化モデルマウスと自然老化マウスについて、老化による学習記憶機能の低下や酸化ストレスの蓄積に対して、メラトニンが抑制効果を持つことが示唆されたが、今後さらにサンプル数を増やしてデータの信頼性を増すことが必要である。 ニューロン新生については、亜急性老化、自然老化のいずれにおいてもメラトニン投与がニューロン新生を増加させないという予想に反するデータが得られているため、脳のサンプリングまでの実験動物の条件設定等を詳細に検討することにしている。 電気生理学的方法によるLTPの解析については、亜急性老化マウスを用いてメラトニンの抗加齢効果について検討する。 また、学習記憶機能に対するメラトニンの抗加齢効果の作用機序の解明を目指し、亜急性老化マウスと自然老化マウスについて、メラトニンを投与しない対照群と比較してメラトニン投与群でのみ学習後に発現量が変化する遺伝子をマイクロアレイにより網羅的に解析する予定である。
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