研究課題/領域番号 |
25350904
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研究機関 | 女子栄養大学 |
研究代表者 |
香川 靖雄 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (30048962)
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研究分担者 |
岩本 禎彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (10232711)
蒲池 桂子 女子栄養大学, 付置研究所, 教授 (20365810)
田中 明 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (70171733)
川端 輝江 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (80190932)
中山 一大 自治医科大学, 医学部, 講師 (90433581)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 菜食主義者 / 脂肪酸不飽和化酵素 / ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 / 魚菜食 / 循環器疾患 / 和食 / ステアリドン酸 |
研究実績の概要 |
本研究は我が国のベジタリアンの初めての遺伝栄養学的研究である。和食が世界無形文化遺産に登録された理由の一つが健康への効果である。しかし和食は食の国際化によって、失われつつある。本研究の目標であるエイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)の給源である魚の消費量は平成24年には僅か70gに減少した。そのため水産資源に代わり、ベジタリアンにも許容されるステアリドン酸大豆油の有効性を初めて立証した(Prost Leuk Ess Fatty Acids 88, 179, 2014)。またDHAの抗肥満効果と関連する腹囲増加のリスクとなるTRIB2遺伝子多型を初めて発見した(Human Genet 132,210, 2013)。日本食の特色、ベジタリアンの中で特色のある魚菜食に属するマクロビオティックの調査、日本人の食事パターンの実測(J Nutr Sci Vitaminol 59, 115,2013)と食の西欧化の進む埼玉県の食事の詳細な解析が行われた。 本研究が目的とするΔ5脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子多型FADS1 rs174547C型アレルは日本人の60%(TC型46%、CC型14%)に見られ、植物性食品のαリノレン酸(ALA)からEPA,DHAを合成する能力がTT型に比して低下している。そのためDHAを全く摂らない純菜食者と乳菜食者(73名)の血漿脂肪酸はTT型に比べてαリノレン酸はTC型で+48%(有意), CC型で+63%(有意)と上昇し、DHAはTC型-20%(有意でない), CC -37%(有意)と低下している。これに対して魚菜食ではCC型であってもTT型とほぼ等しいDHAレベルを維持している。動脈硬化促進因子であるホモシステインの低減にDHAとビタミンB12が有効であることを発見し、国際会議に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①調査目標の達成度は良好:日本人の菜食者(167名)を純菜食+乳菜食(VL群:63名)、卵菜食(17名)、魚菜食(49名)、肉菜食(37名)に分けて(88.5%は3年以上継続)、Δ5脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子多型、血液生化学、赤血球脂肪酸、写真による正確な栄養摂取量、身体状況を実測し、遺伝栄養学的にその全容を把握した。 ②本研究で初めて解明されたDHA要求多型の栄養:魚菜食ではEPA,DHAの摂取量と血漿濃度に有意相関を確認した。とくにDHA摂取量0のVL群のCC型頻度は11%で全体の14%と有意の差は無かった。年齢、性、BMI、ベジタリアン経験年数の全てで補正して比較したところVL群のCC型の血漿脂肪酸は代謝基質であるリノ-ル酸(LA)とALAが有意に高く、代謝産物であるアラキドン酸(AA)、EPA、DHAの全てが有意に低いことを確認した。一方、CC型の赤血球では、長鎖多価不飽和脂肪酸は有意に低くEPA,DHAはCC型で低値であるものの有意に達せず体内保存能が高いことが判った。ただしCC型の赤血球LA,ALAの増加、AAの減少は有意であった。 ③本研究で初めて解明された魚菜食の遺伝子栄養学:魚菜食は非菜食、純菜食、乳卵菜食等に比して健康寿命(JAMA2013;173:1230)や認知症予防(Am J Clin Nutr 2013;97:1076)に対して最もすぐれていることは大規模疫学で報告されている。事実、本研究ではCC型は魚菜食では血清、赤血球のEPA,DHA濃度にTT型に比して有意差がなく、長鎖多価不飽和脂肪酸に有意差が認められた。一方、血清、赤血球のAAは魚菜食でもCC型は有意に低値を示した。
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今後の研究の推進方策 |
①EPA,DHAの多型に応じた適切なn-3脂肪酸摂取量 本研究の申請時には「本研究の目的はベジタリアンの多面的な遺伝子栄養学を通して、ベジタリアンの食事の健康寿命に対する得失を明らかにし、EPA+DHA摂取量に大きな個人差がある一般日本人に対して、現在一律に定められているEPA+DHA目標量から、健康寿命に最適な遺伝子対応摂取量を定めることにある。」としている。遺伝子検査は容易となったが「日本人の食事摂取基準2015年版」では遺伝子多型は全く考慮されていない。したがって現実的な方法としては次の二つを推進する。イ.基質となるαリノレン酸の増量効果:CC型のΔ5脂肪酸不飽和化酵素は活性が0ではなく、酵素構造の変化によるKmの上昇が考えられる。したがってαリノレン酸(エゴマ油)を大量に負荷した被験者の脂肪酸と遺伝子多型の検査を既に開始している。ロ.EPA,DHAの摂取量と血清、赤血球濃度の多型別の用量効果曲線作成:これまでの多数の検査成績から交絡要因、ことにΔ5脂肪酸不飽和化酵素はn-6系、n-3系双方を基質とするので、この影響を補正して、多型ごとの用量効果曲線を求め、真のEPA,DHA目標量を推定する。 ②ステアリドン酸(SDA)の日本人への投与:本研究申請時の最後には「FADS多型を持つベジタリアンの栄養を改善するにはEPAへの変換効率の高い植物のステアリドン酸(SDA)投与が良い。しかし、SDAの日本人での人体試験は食品衛生法第6条で禁じられているが平成26年に承認の見通しがある。」とされていたが平成27年中に承認されれば、特にDHA摂取量0のVL群を中心に投与実験を行う。ただし、CC型はエイコサテトラエン酸からエイコサペンタエン酸へのΔ5脂肪酸不飽和化酵素の低下であるから、その前段階のステアリドン酸はCC型には①イの増量効果がさらに有効かを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度である平成27年度は25年度、26年度に比較して予定されている配分額がすくないため、円滑な研究、特に血液生化学、遺伝子解析に必要な予算を最終年度である27年度に使用する予定である。一般血液検査は安価であるが、研究の途上で、国際会議でも報告したように、ビタミンB12などの分析が高価であることも原因の一つである。また、FAD1多型保持者へのαリノレン酸負荷試験が、初期の予定に加わったためである。もう一つ予備費として本年度残額を準備した理由は、初期に計画した組換えステアリドン酸大豆油からのEPA,DHA合成能を動物実験で確認し、すでに国際誌に発表後、人体への摂取が許可されるとの見通しが報じられたことによる。その場合は純菜食者の負荷試験が可能となる。
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次年度使用額の使用計画 |
各種のベジタリアン、すなわち日本食の特色に近い魚菜食のマクロビオティック、日本でも実行者の多いセブンスデーアドベンティスとの乳菜食、厳密なビーガン(純菜食)東都と対照群あるいはある程度の肉食も認めるフレキシタリアン(半菜食)と多くの群の比較解析をしなければ一律の「ベジタリアン」の平均値では意義が乏しいからである。FADS1遺伝子多型保持者を含めたαリノレン酸負荷試験は進行中である。上記のように組換えステアリドン酸大豆実験が可能となれば、それに優先して残額を使用する。
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