研究課題
基盤研究(C)
平成25年度は、①心筋梗塞前後の運動状況、生活因子の情報の収集、②新規データ、血清サンプルの登録、③既存凍結血清サンプルの計測、④既存症例での運動の健康予後、生命予後の及ぼす影響の独立性について統計的検討の4つの作業を行った。本研究開始前に、急性冠症候群研究会には11517例の心筋梗塞症例が登録されていたが、平成25年度中に登録症例数を12025例まで計508例の症例を追加することができた。これらの症例のデータは、入院時から退院までの身体病態所見、治療内容に加えて、退院後3か月、1年目に実施する予後調査ならびにアンケート調査結果から構成されており、本研究費を用いそのデータの検証、データ入力作業を実施した。特に身体所見データや検査データの不一致項目に関しては、入力ミス、調査ミス、本人の思い違いなどの存在の可能性があり、心臓専門医による再調査を実施しつつデータの正確性を期すこととした。今後時間を経てさらにデータが集積される予定であり、継続してデータベースの構築充実を推進する予定である。平成25年度中に調査可能な身体運動強度(Mets)と心筋梗塞発症前後の運動習慣は2000例程度を予定していたが、2000例以上の調査結果が集積され、これまでに1800例程度の症例のデータの入力が完了している。これまでの概略では、定期的な運動習慣がない症例は、定期的運動習慣を有する症例の4倍に達しており、心筋梗塞後に定期的な運動が勧められているにも関わらず実施率は極めて低率であることが特徴的である。特に女性、心不全症状を入院時に合併した例、多枝病変例で低値であり、今後の症例の増加と解析が期待される。また退院後の運動習慣の有無は、心不全所見などの患者背景を加味しても独立した生命予後規定因子であることが示されており、今後さらに症例数を増して検討を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでのところ平成25年度は、計画通りの症例登録、運動機能に関する調査、データの整合性チェック、匿名化、データ入力・データベース整理が実施できている。昨今の事情から、心筋梗塞全例の登録は承諾取得性の観点から不可能であるが、年間500例におよぶ症例を登録できた点は評価できる。さらに生存退院例のなかから、自律的に運動能力アンケート調査に協力可能であるのは全例の50%程度と想定されるが、これまで約2000例のデータが集積されつつあり、研究初年度としては、順調な進展であると評価できる。現在の入力データの解析では患者背景(年齢、性別、BMI,高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙歴、退院時主要処方薬であるアンジオテン系薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチン、利尿薬、抗血小板薬、硝酸薬、再灌流療法有無、退院後3か月のNYHA分類、独居、SDS値、METS)で補正しても、退院後の運動習慣の有無は独立した生命予後の規定因子であり、このような結果を少ない症例数で証明できたことは、そのインパクトが非常に大きいことを意味している。当初の予定通り運動習慣の予後に及ぼす影響の独立性が確保されたことより、今後は症例数の増加に集中するだけでなく、個別の要因に関する調査、層別解析の実施に向けて、より詳細なデータの集積と解析に着手できることになった。例えば、発症前の定期的運動習慣と予後との関連、運動習慣の獲得ならびに喪失に関わる身体的所見、病態など、検討可能となるよう準備中である。
予後情報の収集と入力と集積したデータの解析を行う。解析から以下について検討を加える。身体活動強度、運動習慣と予後との関連とその独立性:身体活動と予後との関連は、比較的若年者心筋梗塞生存例で明瞭であり、高齢者では、その傾向が他の身体所見や心機能により修飾される可能性が高い。60歳以上、75歳以上など、年齢別、性別、重症度別に予後の関連を検討し、身体活動強度や運動習慣が重要性を検討する。身体運動強度ならびに運動習慣に影響する因子:高齢者の運動習慣や身体活動強度の低下にかかわる、心不全、不整脈などの心機能、血行再建治療や、精神機能(抑うつ気分SDSスコア)、家庭状況(独居)、一般的指標(高感度CRPなど)との関連を明らかにする。運動習慣がどのような心血管イベントの回避と関連するか明らかにする。高齢者においてはすでに動脈硬化は進展しており、運動習慣は非心臓死のみに関連する可能性もある。高齢者では、年齢や心機能以上に身体活動強度や運動習慣の予後への寄与が大きいという結果も想定される。これまで年齢と古典的冠危険因子から予後予測指標が構成されているが、身体運動を主要な予後規定因子として、予後算出式または予後予測の図表化を試みる。身体運動強度や運動習慣に影響する因子のなかで、介入可能な因子を検討する。高血圧などの生活習慣病治療薬よりも生活習慣そのものの改善のほうがより大きな効果が見込まれるのと同様、運動習慣の回復維持や運動強度増強に導く介入方法を探索する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件)
J Cardiol
巻: 62 ページ: 257-262
10.1016/j.jjcc.2013.04.009.
Atherosclerosis.
巻: 227 ページ: 373-379
10.1016/j.atherosclerosis.2013.01.020.
British Journal of Psychiatry
巻: 203 ページ: 90-102
10.1192/bjp.bp.112.111195.
Circ J
巻: 77 ページ: 1026-1032