研究課題
平成26年度は、①心筋梗塞前後運動状況、生活因子の情報の収集②血清サンプルの測定と登録③既存症例での運動の健康予後、生命予後の及ぼす影響の独立性について統計的検討の3つの作業を行った。本研究開始前に、急性冠症候群研究会には11517例の心筋梗塞症例が登録されていたが、平成25年度中に登録症例数を12025例まで登録されている。今年度においては、経験あるコーディネーターの雇用が困難であったことから、新規の症例の登録作業は、本経費を用いて実施せず、運動に関する調査データの検証、データ入力作業を実施した。特に身体所見データ検査とデータの不一致項目に関しては、入力ミス、調査ミス、本人の思い違いなどの存在の可能性があり、心臓専門医による再調査を実施しつつデータの正確性を期した。運動能力などに関するデータは25年度中に1800例程度の症例のデータの入力が完了していた。今年度においては、調査可能な身体運動強度(Mets)と心筋梗塞発症前後の運動習慣データは2000例程度の調査結果確定、入力を予定していたが、2000例以上の調査結果が集積され、平成26年度末までに症例のデータは約3900例弱に達した。調査に対する想定以上の協力が得られていると評価できる。これまでの概括的な解析では、定期的な運動習慣にない症例は、定期的運動習慣を有する症例の4倍に達しており、この傾向は、昨年度末の解析と同じ傾向であった。一般に心筋梗塞後に定期的な運動が勧められているにも関わらず実施率は極めて低率であることがより明白となった。特に女性、心不全症状を入院時に合併した例、多枝病変例で低い傾向にあった。また退院後の運動習慣の有無は、心不全所見などの患者背景を加味しても独立した生命予後規定因子であることがより確実に示され、今後さらに症例数を5000例程度に増して最終的な検討を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでのところ平成26年度は、計画通りに運動機能に関する調査、データの整合性チェック、匿名化、データ入力・データベース整理が実施できている。優秀なコーディネータの確保は、人件費の高騰などの昨今の事情から本研究費の範囲での雇用は困難であったため、新規症例の登録は断念した。しかし運動能力に関する調査について十分な協力が得られており、約2000例の入力を今年度中に完成することができた点で、十分に当初の目的を達成したと評価できる。さらに生存退院例のなかから、自律的に運動能力アンケート調査に協力可能であるのは全例の50%程度と想定していたが、これまで合計約3900例のデータが集積されており、研究2年目としては、順調な進展であると評価できる。現在の入力データの解析では患者背景(年齢、性別、BMI,高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙歴、退院時主要処方薬であるアンジオテン系薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチン、利尿薬、抗血小板薬、硝酸薬、再灌流療法有無、退院後3か月のNYHA分類、独居、SDS値、METS)で補正しても、退院後の運動習慣の有無は独立した生命予後の規定因子であり、この結果をこのような多数の症例数で証明できたことは、そのインパクトが非常に大きいことを意味する。当初の予定通り運動習慣の予後に及ぼす影響の独立性が確保されたことより、今後は症例数の増加に集中するだけでなく、個別の要因に関する調査、層別解析の実施に向けて、より詳細なデータの集積と解析に着手できることになった。例えば、発症前の定期的運動習慣と予後との関連、運動習慣の獲得ならびに喪失に関わる身体的所見、病態などが検討可能となるよう最終年度に向けて準備中である。
予後情報の収集と入力と集積したデータの解析、さらに業績の公表を行う。最終的には5000例以上のデータベースの構築を目指す。解析については、以下について検討を加える。身体活動強度、運動習慣と予後との関連とその独立性:身体活動と予後との関連は、比較的若年者心筋梗塞生存例で明瞭であり、高齢者では、その傾向が他の身体所見や心機能により修飾される可能性が高い。60歳以上、75歳以上など、年齢別、性別、重症度別に予後の関連を検討し、身体活動強度や運動習慣の重要性を検討する。身体運動強度ならびに運動習慣に影響する因子:高齢者の運動習慣や身体活動強度の低下にかかわる、心不全、不整脈などの心機能、血行再建治療や、精神機能(抑うつ気分SDSスコア)、家庭状況(独居)、一般的指標(高感度CRPなど)との関連を明らかにする。運動習慣がどのような心血管イベントの回避と関連するか明らかにする。高齢者においてはすでに動脈硬化は進展しており、運動習慣は非心臓死のみに関連する可能性もある。高齢者では、年齢や心機能以上に身体活動強度や運動習慣の予後への寄与が大きいという結果も想定される。これまで年齢と古典的冠危険因子から予後予測指標が構成されているが、身体運動を主要な予後規定因子として、予後算出式または予後予測の図表化を試みる。身体運動強度、運動習慣、その他の影響する因子のなかで、介入可能な因子を検討する。高血圧などの生活習慣病治療薬よりも生活習慣そのものの改善のほうがより大きな効果が見込まれるのと同様、運動習慣の回復維持や運動強度増強に導く介入方法を探索する。公表については、第80回日本循環器学会総会、第65回米国心臓病学会(ACC)、また米国心臓学会(AHA)のEPI/LIFESTYLE2016を予定する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件)
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