カルパインの異常活性化はアルツハイマー病(AD)の発症に関与しており、その生体内基質の同定はADの予防や治療に結びつく端緒となる。そこでカルパインの内在性特異的阻害剤であるカルパスタチンの遺伝子を欠損させてカルパインの活性制御を消失させたマウスと野生型マウスの海馬の初代培養細胞を使用して、異常活性化したカルパインの生体内基質の同定を試みた。海馬は記憶に関与し、ADにおいては多大な損傷を受ける部位であり、初代培養細胞は生体と同様な挙動を示すことが期待される。神経伝達物質であるグルタミン酸を添加後0分、60分の細胞を回収し、細胞質画分、膜・オルガネラ画分、核画分、細胞骨格マトリックス画分の4つに分画した。タンパク質以外の物質を除去後、各画分を蛍光試薬でラベルし、二次元電気泳動を行った。比較する試料を異なる蛍光試薬でラベルし、混合した後電気泳動を行うこの方法を用いると1枚のゲル上で各試料中に含まれるタンパク質同士を比較することができた。カルパスタチン遺伝子欠損マウスと野生型マウス間およびグルタミン酸添加の有無での各画分のタンパク質スポットを蛍光検出システムにて比較・解析したが、量的に顕著な差のあるタンパク質スポットは検出できなかったため、新たにカルパイン結合カラムを作製し、カラムに吸着するタンパク質の同定を試みた。各画分をカラムに添加後、吸着したタンパク質混合物を電気泳動し、銀染色後、タンパク質スポットをゲルから切り出し、酵素消化し、質量分析により同定した。その結果、カルパインの生体内基質の可能性があるタンパク質を同定することができた。さらに特異的抗体を使用して、カルパスタチン遺伝子欠損マウスと野生型マウスの海馬の初代培養細胞抽出液、当該研究室で作製したADモデルマウスおよび野生型マウスの脳抽出液のウェスタンブロッティングを行い、同定したタンパク質の動態を解析した。
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