気になる行動と身体感覚の偏りについて、九州地方と東北地方の保育所で調査を行い、さらに関東地方の幼稚園でも調査を行った。その結果、気になる行動を示す幼児の多くに身体感覚の偏りが認められるという従来の結果は支持された。また、気になる行動と身体感覚の偏りにも一定の関連性があることが分かった。その一方で、姿勢や運動制御に関する気になる行動と身体感覚の偏りには関連性が認められにくかった。その理由として身体運動や姿勢は、それらを直接的に司る体性感覚だけでなく、その時の環境・状況に五感も応答するためであると考えられた。例えば「姿勢が崩れやすい」のは、姿勢を保つ体性感覚の偏りだけに原因が帰結するのではなく、眼前や周囲で起こっていることに「気が散ったり」「注目したり」することでも起こり得ると考えられるのであった。これに加えて、幼稚園での調査では、教諭が気になる行動が保育所の保育士が気になるそれとは異なるという結果があった。例えば、保育士は主に幼児個人の行動に対して気になる姿を指摘する(例:「いつもごろごろしている」など)のに対して、幼稚園の教諭は、集団への適応の困難さについて指摘をすることが多く(例:「活動に遅れがちである」など)、幼児個人の状態と身体感覚の偏りとの関連性を分析することが難しいという実態があった。 これらの結果から、身体感覚を改善する保育方法をより良いものにしていくためには、外界の感覚刺激の入力に対する過敏・鈍麻性と身体運動の不器用さに分類して考察することが必要なこと、また、気になる行動と特定の身体感覚領域の偏りの関連性を検討するだけでなく、身体感覚領域間の偏りの相互性からも検討すること、さらに、保育中の保育者の評価をより容易にするために、保育で見られる具体的な姿勢や動きの観点から、幼児の気になる行動を評価し、それらを改善できるよう手立てを検討することが有効であると考えらえた。
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