本研究は,近年幼少期の子どもたちにおいて問題とされている運動能力の低さや動作の未熟さの改善に向けて,効果的で活用可能な運動プログラムの作成,提案のための基礎となる資料を得ることを目的とした。平成27年度では前年度までの経過を受け,保育現場(幼稚園)において幼児の自由遊び中の活動の観察とその分析のためのデータ収集を継続した。特に今年度は,運動能力水準と自由遊び中の動作の多様性との関係を確かめるために年長児のデータを増やした。蓄積されたデータの分析の結果,運動能力の高い子どもは低い子どもに比べて,自由遊び中に出現する動作の種類が多いこと,また動作から動作への展開も早いことが再確認できた。また,出現動作数の多い子どもは観察時間中,遊び始めの探索行動時により多くの動作が出現し,その際には園庭の大型固定遊具を回遊するなど行動範囲が広い事例が多くみられた。それに伴ってのぼる,おりる,跳ぶ,ぶら下がる,わたる,など多種の動作が出現した。一方,運動能力の低い子どもは,砂場あるいは友達とおしゃべりなど座位行動を含む活動性の低い動作が多くみられた。また,運動能力の低い子どもは,運動量が多い場合であっても動作としては歩行,走行に限られ動作の種類としては非常に少なかった。これらのことから,子ども自身の自由な意思のもとでの活動には個人差が見られ,日常活動における身体運動の内容は少なからず動きの習熟度や運動能力に影響を及ぼす可能性が示唆された。したがって,一斉活動での運動の機会には,日常的に出現頻度の少ない動作を遊びプログラムに組み入れるなど,子どもたちの動きを促進する工夫が必要になると考えられる。これらの結果は関連学会での発表や論文として公表している。また,保育者を対象とした研究会等でも結果を踏まえた講演を行った。本研究から今後さらに運動遊びプログラムの提案ができるようさらに検討を続けたい。
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