研究課題/領域番号 |
25350956
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
甘崎 佳子 独立行政法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 研究員 (80435700)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線 / 胎児期 / 胸腺リンパ腫 / 化学発がん |
研究実績の概要 |
一般に胎児やこどもは放射線の感受性が高いとされていることから、放射線診療などによる被ばくの影響を心配する声も多い。しかし、最近の研究では胎児期被ばくの発がんリスクは小児期よりむしろ小さいのではないか、という報告が増えてきた。胎児期に受けた放射線による損傷は出生後に消えてしまうのだろうか? 本研究は、胎児期被ばくが将来の発がんに関与するか否かを動物実験で明らかにすることを目的とした。方法は、胎生17日齢または5週齢(ヒトの思春期に相当)のマウスにX線2 Gyを1回照射した後、5週齢、9週齢、13週齢からそれぞれ4週間 N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)200 ppmを投与して胸腺リンパ腫(TL)を誘発し、ENU投与だけで誘発した場合の発がん率と比較する。また、得られたTLについてがん関連遺伝子の変異解析を行い、胎児期被ばくによるゲノム損傷が生後も残っているのか分子生物学的にアプローチする。 現在までのTL発生率は、X線単独照射では胎生17日齢、5週齢ともにTLの発症は見られず0%、ENU単独投与では5週齢からのENU投与群20%、9週齢群3.3%、13週齢群6.7%で年齢とともに減少した。一方、X線照射後にENUを投与した場合のTLの発生率は、胎生17日齢照射では5週齢からのENU投与群36%、9週齢群18%、13週齢群14%であった。5週齢照射では5週齢(照射4日後)からのENU投与群80%、9週齢群42%、13週齢群16%であった。以上の結果から、胎児期被ばくは単独ではTLを発生させないが、生後のENUばく露による発がんを促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由) 当初、X線とENUによる発がん処理は平成26年1月までに終了する予定であった。しかし平成25年10月、当研究所動物飼育施設においてマウス肝炎ウイルスによる汚染事故が発生し、当該施設での動物実験全てが打ち切りとなったため、計画通り実験を進行できなかった。 動物飼育施設のクリーン化後、26年4月より実験を再設定した。前年の打ち切りの際、処分するマウスを用いて胎生17日齢照射群についてはENU投与開始予定週齢である5、9、13週齢で、4週齢照射群とコントロール(非照射)群は9、13週齢で各群10匹ずつ解剖して体重、胸腺、肝臓、脾臓の重量変化を調べた。その結果、胎児期照射群では体重および各臓器の重量が他の2群より少ない傾向が見られた。胎児期照射の影響と考えられるが、胎児期照射群は妊娠後期マウスを用いたのに対し、コントロール群および5週齢照射群は4週齢時に購入したマウスを用いたため、出生から4週齢までの飼育環境の違いが影響した可能性も排除できない。そのため、26年度からの再実験では全てのマウスについて妊娠後期のマウスを購入し同じ環境で飼育して実験に用いることとした。 平成26年度は11群(計550匹)のマウスについてX線照射およびENU投与を終了した。これまでに瀕死または死亡したマウスは全て解剖し、TLは分子解析(DNA、RNA、タンパク、染色体、FACS解析)用サンプルとして保存した。残りのマウスについては、飼育・観察を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27度は、 ①得られたデータからENU誘発TLにおける放射線胎児期被ばくのリスク評価:ハザード比を求める。 ②TLでは各染色体におけるLOH(ヘテロ接合性の消失)頻度が発がん因子によって異なることがわかっている(Shimada et al. Radiat Res., 2000)。得られたTLサンプルからDNAを抽出して11番、12番、19番 染色体(放射線誘発TLで高頻度のLOHが認められる)についてLOH解析を行い、胎児期被ばくによるゲノム損傷の特徴を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度に当所動物飼育施設において発生したマウス肝炎ウイルス汚染事故によって、実験を一時中断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に動物実験を再開した。今年度は引き続きマウスの飼育観察を行うとともに、得られた胸腺リンパ腫サンプルの分子生物学的解析を行う。また、実験再開後に得られた結果について学会発表を行う。
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