【目的】一般に胎児やこどもは放射線の感受性が高いとされており、放射線診療などによる被ばくの影響を心配する声も多い。しかし最近では、胎児期被ばくの発がんリスクは小児期よりむしろ小さいのではないか、という報告も増えてきた。胎児期に受けた放射線の損傷は出生後に消えてしまうのだろうか? 本研究は、胎児期被ばくが将来の発がんに関与するか否かを動物実験で明らかにすることを目的とした。 【研究実施計画】胎生17日齢または5週齢(ヒトの思春期に相当)のマウスにX線2Gyを1回照射した後、5週齢、9週齢、13週齢からそれぞれ4週間 N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)125 ppmを投与して胸腺リンパ腫(TL)を誘発し、ENU投与のみで誘発した場合の発がん率と比較する。また得られたTLについて遺伝子変異解析を行い、胎児期被ばくによるゲノム損傷が生後も残っているのか分子生物学的にアプローチする。 【研究成果】TL発生率は、(1)X線単独照射:胎生17日齢照射群0%、5週齢照射群2%、(2)ENU単独投与:5週齢からの投与群20%、9週齢投与群6%、13週齢投与群10%であった。複合ばく露では、(3)胎生17日齢照射:5週齢ENU投与群42%、9週齢投与群22%、13週齢投与群16%、(4)5週齢照射群:5週齢(照射4日後)ENU投与群80%、9週齢投与群40%、13週齢投与群20%であった。 【最終年度】得られたTLからDNAを抽出し、11、12、19番染色体のLOH(ヘテロ接合性の消失)解析を行った。放射線誘発TLでは11番染色体において特徴的なLOHパターンを示すことが分かっている。しかし、胎児期の複合ばく露ではENU投与時期にかかわらず全てENU単独群と同様のLOHパターンが認められた。このことから、胎児期被ばくはENUによるTL発生を何らかの形で押し上げる可能性が示唆された。
|