昨年度に引き続き、海洋生物等のメタノール粗抽出物に対して、棘皮動物の1種イトマキヒトデの卵を用いた受精阻害活性試験ならびに胚発生阻害活性試験を行った。海水で段階的に希釈した海洋生物等の粗抽出物に、1-メチルアデニン添加により成熟処理したヒトデ卵を加えて顕微鏡下で受精膜形成の有無を判断した。また、各種海洋生物等のメタノール抽出物に、あらかじめ媒精したあとのヒトデ受精卵を加えて、影響の有無を発生段階毎に顕微鏡下で観察した。ヒトデの受精または胚発生を特定の発生段階で選択的に阻害する活性が認められた粗抽出物については、順次ヘキサン、酢酸エチル、ブタノールおよび水の各可溶性画分に溶媒分画し、さらに活性試験を実施した。活性が認められた溶媒可溶性画分を、各種カラムクロマトグラフィーにより繰り返し分画・精製することにより活性物質を単離し、NMR、MS等によって活性物質の構造を特定した。その結果、エジプトの紅海産Sarcophyton属軟体サンゴのジクロロメタン-メタノール可溶性画分から、4種の既知ジテルペノイド類と1種の既知トリテルペノイドに加えて3種の新規センブラン型ジテルペノイド類を単離・構造決定した。このうちの1種については、X線結晶解析によって化学構造を確認するとともに、絶対配置を決定した。これらの化合物について、ヒトの癌細胞に対する細胞増殖阻害活性を実施した結果、ジテルペノイド類は、弱いかあるいはほとんど阻害活性を示さなかったのに対して、トリテルペノイドであるsardisterolが肺ガン細胞A549に対して増殖阻害活性を示すことが明らかになった。
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