網膜細胞は光刺激を直接的に恒常的に受けるため、酸化ストレスに常に暴露されている。網膜細胞はその機能を保持するため、転写因子Nrf2やHSF-1を介した「ストレス応答」を備えている。すなわち、Nrf2を介した抗酸化酵素群の誘導とHSF-1を介した熱ショックタンパク質の誘導である。Nrf2を介したストレス応答は最近かなり明らかにされているが、HSF-1を介した機構は不明のままである。この状況にブレイクスルーを創るためには、網膜細胞においてHSF-1を活性化する低分子プローブが必要である。研究代表者らはこの二つの経路を共に活性化する新規プローブD1の作用メカニズムの解析を行った。平成25-26年度においてその分子機構を明らかにしてASN Neuro(IF=4.436)にFull Paperを発表した。これらの実験によって、D1がパラ型のヒドロキノンであることがNrf2及びHSF-1の両方を活性化できる分子基盤であることを発見した。27年度において個体レベルでの網膜の保護作用を検証するため、ラットの光刺激による網膜保護作用を検討するため、光誘起網膜変性(LIRD)の実験系を立ち上げている。現在までにオルソ型のヒドロキノンであるD3はLIRDを抑制せず、パラ型のヒドロキノンであるD3だけが、LIRDを抑制することを確認している。これを論文にまとめるため、現在D1及びD3の脳移行性の比較を行っている。
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