研究課題/領域番号 |
25350992
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
水挽 貴至 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60463824)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 報酬 / 時間 / 遅延 / 不確実 / ギャンブリング / 意思決定 |
研究実績の概要 |
①課題の細部の調整を行った。本課題は、サルが選択行動を行ってから報酬が発生するに至るまでの時間遅延が、不変の選択肢と、ランダムに変化する不確実な選択肢の、いずれかを選ばせる課題である。当初の申請書では、不確実選択肢においては、一定の範囲内で連続的に遅延量が変化するように設定する、と記述していた。しかし数理モデル構築にあたっての利便性と、サルが学習しやすくするという目的から、不確実選択肢における遅延量は2種類にとどめ、これがランダムに切り替わるものをした。また選択肢を示すCRTモニター上の視覚刺激の明度、面積、色彩を統一した。このことにより、選択肢呈示の際の瞳孔径を比較可能となり、身体覚醒度を推定する指標として用いることができるようになった。 ②サルのトレーニングを行った。アカゲザル一頭に対し6か月間、チェアーへのトランスファー、バー・リリース、遅延報酬と視覚刺激とチェアーに取り付けられた左右バーの三者の連合関係、などを学習させた。この事前のトレーニングにおける成績の改善がプラトーに達したのを確認してから、本課題を導入した。現在はまだ遅延時間が不変の選択肢のみを2種類(0ms遅延対2000ms遅延)提示していずれかを選択させるトレーニングを行っている段階である。H27年4月の時点で、遅延時間が短い方を選択する確率が61%と僅かに高く、この選択率は日々上昇傾向になることから、学習が進んでいるものと判断した。近々時間不確実な選択肢を導入する予定である。 ③本課題向けに導入した個体が慢性下痢・嘔吐症をきたした。文献的には飼育下のサル集団下痢・嘔吐症が報告されており、ヘリコバクター感染が多いという記述があり、ニューキノロン系の投与を行ったところ著明に改善した。本課題とは直接関係のない派生的な成果ではあるが、今後サルを用いた実験環境の維持にとって有用な所見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
頭書の実績の概要にも示した通り、本課題向けに使用することを予定していた2個体が慢性的な下痢・嘔吐症をきたして体重増加が望めない状態が長期続いた。1頭については3kg台、もう1頭については6kgをわずかに超える程度を推移した。本学動物実験倫理規定では体重6kgに満たない個体は実験に供することができない。このため、専門の獣医師の往診や、飼育環境の調整、餌の変更、駆虫薬の投与などといった、種々の対応を行ったが、いずれも改善が望めなかった。文献的調査によれば、赤痢アメーバなどの検疫上問題となる特定の感染症ではなくとも、ある種のヘリコバクターによる感染が認められることがあり、これは通常の診断法では特定が困難で、検体の培養やPCRによる菌種の特定といったかなり特殊で大掛かりな検査を要するとされていた。そこでempericalにニューキノロン等の投与を行い、消化機能を改善させ全身状態を実験に適した状態にするために時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度前半には、学習を完成させ、行動レベルの記録と解析を行う。もし行動レベルの結果が、当初想定した仮説の説明に耐えうるものであれば、頭部に単一ニューロン活動記録を行うのに必要なポート取付けの手術を施行しニューロン活動記録を開始する。もし行動レベルの結果が望ましくない場合には、当初の計画を変更し、仮説の修正や、トレーニング法の変更、課題の変数を調整するなどして、行動実験としての完成に注力することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
導入した個体の全身状態が不良で、この改善のために時間を要し行動実験の開始が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
もし行動実験の結果が当初の想定に適う望ましいものであれば、単一ニューロン活動記録の導入に向けた物品の整備や、学会発表等に充てる。一方、行動実験の結果が望ましくない場合には、実験パラダイムの変更が必要になるため、実験装置の追加整備に充てる。
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