研究課題
下側頭葉皮質は視覚による物体認識に不可欠な脳領域であり、下側頭葉ニューロンの活動は物体を同定するために必要な情報を符号化している。これまで微小電極法を用いて下側頭葉内の局所領 域から単一細胞の活動を記録することによって、多数の重要な知見が蓄積されてきた。しかし広範囲の領域を高い時間、空間分解能で計測する方法が存在しなかったため下側頭葉皮質の応答様式の全貌は不明であった。申請者らは近年、大脳皮質の広い領域から長期間にわたり高時空間分解能で記録が可能なサル皮質脳波(Electrocorticogram (ECoG))法を確立した。この方法を下側頭葉皮質全域に適用し、視覚応答の伝搬様式や刺激特異的な活動時空間パターンを可視化することに成功した。しかし、物体を正しく認識するためには、皮質の広域にわたり分散して符号化された情報が適切に読み出される必要がある。読み出し方法に関する仮説の一つは広域に分散した情報すべてを読み出しているとする“分散読み出し仮説”である。対極の仮説はごく一部のニュ ーロン集団の情報のみを読み出しているとする “局所読み出し仮説”である。本研究では広域 ECoG 電極を用いて、認知課題遂行中のサルに時空間パターン電気刺激を行い、分散読み出し仮説の可能性を直接的に検証することを目的とした。今年度はサルに学習によって記憶させた視覚図形が広域脳活動の空間パターンに表現されるか検証した実験結果をまとめた。その結果、シータ帯域 (4ー8Hz) の周波数を持つ脳活動の空間パターンが図形の記憶をコードすることが分かった。この空間パターンは36野からTE野、海馬傍皮質の一部にまで広がっていたことから、広域の空間活動パターンが視覚記憶の形成に重要であることが示唆された。これらの報告はオープンアクセス国際科学雑誌Nature Communicationsに受理され公表準備中である。
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Nature Communications
巻: in press ページ: in press
Cerebral cortex
巻: 25 ページ: 1265-1277
10.1093/cercor/bht319