研究課題/領域番号 |
25351000
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
緒方 勝也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50380613)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳波 / 経頭蓋磁気刺激 / 運動誘発電位 / 周期活動 / 周波数分析 / ウェーブレット変換 / 位相 |
研究実績の概要 |
平成26年度は前年度行った健常成人を対象としたTMSと脳波の関係を更に評価するために磁気刺激の強度を変えて計測した。TMSの刺激強度は2種類を用い、低強度(安静時閾値)、もしくは高強度(1mVの振幅が得られる強度)を用いた。被検者には安静、開眼状態を指示した。脳波を連続して記録しながら5-7秒毎にTMSを行い右手第一背側骨間筋よりMEPを得た。TMSは低刺激強度条件、高刺激条件ともに100回ずつ記録し、計200回刺激を行った。MEPは振幅を各試行毎に計測し、TMS直前の脳波との対応を評価した。脳波の解析のためTMS時刻を基準に0.5秒前からデータを切り出した後周波数分析した。周波数分析にはウェーブレット変換を用い、8-30 Hzまでを関心周波数帯域とした。この解析によりMEP振幅に影響を与える脳活動の状態を解析し、またMEP振幅に影響する脳の状態がTMS強度が高い時と低い時で異なるかを検討した。 TMS強度が高い条件ではMEP振幅が高い時はMEP振幅が低い時に比べ左C3 (TMS直下の電極)でα-β帯域のパワー値が高い傾向が見られた。一方TMS強度が低い条件ではMEP振幅が高い時(MEPが観察出来た時)はMEP振幅が低い時(MEPが観察できなかった時)に比べ脳波C3のα-β帯域のパワー値が低い傾向が見られた。TMS強度が高い時の結果は前年度で行った、開閉眼による脳波-MEPの関連を検討した研究に於ける開眼時の条件と概ね一致した。すなわちTMS強度が高い時にはM1周囲のαーβ帯域のパワー値が高い時にMEP振幅が高くなる傾向を確認することができた。一方TMS強度を低くすると脳波のパワー値とMEP振幅の結果がTMS強度が高い条件と異なることが示唆された。このことは今まで指摘されていなかった観察結果で、TMS強度によりMEP振幅が高くなりやすい脳の状態が異なることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では開閉眼で脳波とMEP振幅の解析により、M1を中心とした脳活動と、そこにTMSが加わった際の筋電図応答の関係を評価し開眼・閉眼といった視覚入力の差によっても運動野の応答性が変化することが示唆された。この際開閉眼ともにC3電極のα-βパワー値が高い時の方がMEP振幅が高くなる傾向が示されたが、この結果は過去のいくつかある報告と異なり、本研究の問題点と考えられた。この問題は計画当初予想していなかったことだが、過去のいくつかの報告では本研究で当初用いた刺激強度(1mVのMEP振幅が得られる強度)よりも小さな刺激強度(安静時閾値)を用いたものが多く、このことが結果に影響しているという仮説を立てた。この仮説を検証するためにTMS強度を2水準設定して脳波-MEPの関連を評価した。この研究結果まだ8名と少数だがTMS強度が高い条件では前年度と同様に脳波パワー値が高い時にMEP振幅が高くなるのに対し、TMS強度が低い条件では脳波パワー値が低い時にMEP振幅が高くなる傾向が示され、仮説を支持する結果が得られたとかんがえられる。 並行して脳波位相や電極間の位相差によりMEP振幅が影響されるかを検討しているが、これについては現在までのところ明らかな傾向は見られず、次年度の検討課題として残されている。 また脳波位相や電極間位相差については現時点での結論は見いだせていないが経頭蓋交流電流刺激によりM1を刺激しMEP振幅の変化が生じるか準備を開始し、次年度詳細な検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は平成26年度の検討を更に進める。一つは脳波-MEPの関係を明らかにするため被検者数を更に増やす。現時点で8名ほどのため15-20名を目標として計測、解析を行う。 また経頭蓋交流電流刺激(tACS)によるM1興奮性の修飾を検討する。脳波位相や電極間位相については明確な結果が得られていないため予備実験による結果を基にM1上とPz上に電極を配置し1mAでの刺激を行う。tACS中に位相に同期させてTMSを行い、位相によりMEP振幅が影響されるかを検討する。また前年度までにα-βのパワー値とMEP振幅の関連が示唆されたことを受け、あるいは過去のtACSの報告から10-40 Hzの報告が比較的多く見られることより10 Hz、20 Hzを主な関心周波数として設定しtACSを行う。これによりtACSで脳波周期活動を外部から同期、あるいは共鳴させM1の興奮性を修飾できるか検討することができる。 次にある位相でtACSのM1への修飾の効果が見出された時には周波数特異性を見るため、ある位相に対し関心周波数の領域を10-80 Hz程度まで広げて検討を行う。tACSが位相特異性を持っている場合に、それが周波数特異的に働くのか検討する。tACSがM1に外的刺激で同期させる際には応答しやすい周波数があることが予想されるため周波数特異性が見いだされることが期待されるが、周波数特異性がない場合には作用機序を再考する必要性が生じる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初予算から計測解析に伴う人件費が増加することが明らかとなったため前倒し執行を行った。前倒し執行により概ね予算計画通りの執行となったが、データ保存のストレージやインク代などで少額ながら計画からの差が生じ、わずかに残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度から引き継ぐ次年度使用額は非常に小さな額であり、次年度で予定外で解析中間データの保存や追加で書籍資料などの必要性が生じた場合に利用できると考えられる。 よって概ね当初予算通りの使用計画に沿って予算執行を行う。
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