研究課題/領域番号 |
25351005
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
林 隆介 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 主任研究員 (80444470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経科学 / 顔認識 / 画像認識 / 下側頭葉 / BMI |
研究概要 |
われわれは、顔の向きがいろいろと変化しても、誰の顔か正確に判断することができる。こうした顔認知機能は、下側頭葉の「顔エリア」とよばれる脳領域群からなるネットワークが担うと考えられているが、その詳細は明らかでない。本研究では、マカクザルの下側頭葉にマイクロ電極アレイを埋め込み、神経活動の同時記録により複数の顔エリアを同定することを初年度の第一目標とした。その後、各顔エリアを多点電気刺激し、顔認知機能の変化を定量評価する実験に向けた準備を行った。 これまでに、下側頭葉の終端部であるTE野の後部、中央部、前部に埋め込んだマイクロ電極アレイから神経活動記録を行い、それぞれの部位における顔情報処理の諸性質を明らかにした。様々なヒトの顔を、異なる方位から観察した画像を提示し、神経応答を解析すると、顔の方位と顔の個人識別情報(ID情報)の表現様式がTE野の部位によって異なることを明らかにし、その詳細を調べた。 さらに、多数の神経活動を同時に計測できる実験手法の利点を活かし、新たに、機械学習を用いた視覚情報の復号化技術を開発し、積極的に学会発表を行った。 また、電気刺激実験の準備として、1)新たな実験ブースの構築、2)64chの同時電気刺激装置の立ち上げ、3)カメラ20台を使った多視点画像撮影による3Dスキャンシステムを構築した。この3Dスキャンシステムにより、精緻な3DのCGモデルが作成可能となり、ヒトの顔だけでなく、サルの顔についても、左右±90度の範囲で任意の角度から観察した画像を実験で提示することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、下側頭葉の終端部であるTE野の後部、中央部、前部に埋め込んだマイクロ電極アレイから神経活動記録を行い、それぞれの部位における顔の方位とID情報の表現様式の違いをとらえられることに成功した。TE野後部では、ID情報によらず、顔の方位の違いを符号化しているのに対し、TE野中部や前部では、方位に依存した情報だけでなく、IDに依存した情報を、ニューロン群の集団活動として分散的に表現していることが示唆された。また、方位情報とID情報が符号化される時間差も示唆された。 この他、顔だけでなく、様々な物体画像を提示した時の神経応答をディープニューラルネットとよばれる最新の機会学習手法を使ってモデル化することにより、視覚情報を復号化する技術を開発した。同技術を応用することにより、ニューロンの選択性を、顔を含めた物体画像全般との関係の中で記述できる可能性がある。 さらに、電気刺激実験に向けた準備として、実験動物1頭について実験課題を遂行できるようトレーニングを終えた。また、2頭の実験動物をつかって、課題訓練と計測実験を同時に行えるよう、新たな実験ブースを立ち上げた。そして、最大で64chの電極を同時に電気刺激できる装置を立ち上げ、動作チェックを行った。この他、3Dスキャンシステムを自作し、サルの顔について精緻な3DのCGモデルが作成可能となった。これにより、ヒトの顔画像以外にサルの顔画像も方位情報やID情報を変えて実験画像として提示できるようになった。 このように、顔情報処理様式の詳細が明らかになり、実験環境の立ち上げが進むなど、計画当初の予定を概ね達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
訓練を終えた実験動物の下側頭葉のさまざまな脳領域(TEO野およびTE野後部、TE野中央部、TE野前部)の表面に400μm間隔で配列された96本の電極からなるアレイ型電極を計4個(合計384本の電極)埋め込み、さまざまな画像に対する神経活動を記録することを目標とする。そして、顔エリアに対応する部位を同定したのち、各顔エリアを多点電気刺激し、顔認知機能の変化を定量評価する実験を行うことをめざす。 さらに、新しい実験ブースを利用して、2頭目の実験動物についても実験課題の訓練を行い、同様の電極埋め込みと神経活動記録を行いたい。 また、3Dスキャンシステムを使って多くのサルの顔の3Dモデルを作成するとともに、3Dモーフィングソフトを利用し、サル顔からヒト顔、あるいは顔から非顔オブジェクトへ変化する画像を集めたデータベースを整備する。これにより、ID情報の変化が大きな画像を実験に用いることが可能になり、より詳細な顔情報処理様式が解明され、電気刺激実験における刺激効果が高められることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
必要物品の入札購入により、当初予定より支出額を抑制することができた。残額5243円は、研究資金の有効利用のため、基金化制度を使って次年度使用額に繰り越すこととした。 申請時の予定どおり、物品購入などの必要経費にあてる。
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