ヒトをはじめとする霊長類は、顔の向きが変わっても、それが誰の顔か正確に判断することができる。こうした顔認識能力の神経基盤として、下側頭葉の「顔エリア」とよばれる脳領域群からなるネットワークが重要な役割を担うと考えられているが、その詳細は明らかでない。研究計画の最終年度にあたる本年度は、慢性埋め込み電極を介した皮質電気刺激実験結果の問題点を検討するとともに、顔情報処理に関わる時間的側面に注目した心理物理実験を行った。 前年度までに、下側頭葉の終端部であるTE野の後部、中央部、前部に埋め込んだマイクロ電極アレイから神経活動記録を行い、顔の方位と顔の個人識別情報(ID情報)の表現様式が、TE野の部位によって異なることを明らかにしていた。また、さまざまなヒトの顔の3DCGモデルを作成し、モーフィング操作によるID変化と回転による方位の変化が、神経応答にどのように影響するのか調べるための画像データベースを構築した。 本年度は、埋め込み電極を介した皮質電気刺激の予備実験において生じた技術的問題点を明らかにした。また、顔のIDの変化と方位の変化が与える認知時間への影響を調べるため、新たに健常者を対象とした心理物理実験を行い、ID情報の識別で特に顕著な、時間遅れを明らかにした。また、神経応答や強制2肢選択実験における被験者の応答から、神経情報処理の非線形な効果を同定する手法を新たに開発し、積極的に学会発表を行った。
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