第3年度の平成27年度は引き続き関連資料の収集・分析を行うとともに、中国への現地調査を2回実施した。第1回は、2015年9月、広東省梅州で行い、中国客家博物館、葉剣英記念館などで客家と中国革命に関する展示内容などを調べた。また、広州で客家研究者、近現代史研究者と学術交流を行い、問題意識を深めた。第2回は2016年2-3月に客家の揺籃の地とされる江西省南部で行い、井岡山革命博物館、江西客家博物院などの展示内容を調査すると同時に、地元の客家研究者と意見交換した。 これまでの研究で明らかになったのは以下の項目である。(1)中国革命は客家居住地域を根拠地として推進され、客家の存在抜きには歴史を語れないにもかかわらず、革命(歴史)博物館では客家の貢献は言及されず、また、客家博物館では客家と革命の関連性についての展示が見られないこと、(2)客家と革命についての史実は、共産党の公式な党史、革命史でもほとんど言及されることがなく、歴史教科書でも伏せられていること、(3)学術界では客家と革命の研究は存在するが、質量ともに極めて限定的な研究にとどまっていること、(4)客家の「タブー視」には、共産党の階級闘争史観、民族団結理論、反地方主義や反宗派(セクト)主義の政治闘争史が深く関与していると考えられること。 1980年代に中国、台湾でほぼ同時に勃興した客家復興運動は、台湾では民主化の進展とあいまって客家の政治的解放にまで至ったものの、中国では依然として政治的くびきが重く、「未完の客家ルネッサンス」に終わっていることが確認できた。客家問題は共産党の歴史や体制を考察する際の重要な座標軸であり、歴史の再評価を含む中国の真の多元化が、いかなる理由により、どのように阻害されているのか、問題を解くカギをこの研究を通じて解明できた。それは現代中国研究に新たな知見を提供しうると考えている。
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