研究課題/領域番号 |
25360002
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長縄 宣博 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (30451389)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 帝国 / 帝国主義 / ソ連 / 中央アジア / 中東 / 外交史 / 軍事史 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
26年度も国際的な業績作りと史料収集の両面で大きな成果があった。6月末と7月頭にそれぞれワルシャワとロンドンで第一次世界大戦関連の国際会議で報告し、これと合わせて当初27年度に予定していた大英図書館India Office Records(IOR)での調査を前倒しで行なった。10月にはカザンとモスクワでロシアのイスラームに関する国際会議に参加し、タタール語文献の豊富なカザン連邦大学図書館に加え、ハキーモフのタシュケント時代についてモスクワの軍事文書館(RGVA)で調査を行なった。11月の北米のスラヴ・ユーラシア学会(ASEEES)では、1920年代後半のソ連のメッカ巡礼事業を帝政期との連続性と新しさの観点から報告した。12月には、27年度にウファで開催される予定だったハキーモフ生誕125周年の国際会議が前倒しで開催されたので、そこで基調講演を行なうことができた。 史料調査の最大の成果は、イラン北東部のマシュハドで総領事だったハキーモフの足跡をIORで辿れたことだ。ハキーモフの経歴の中でマシュハドとラシュトで総領事として勤務した時期(1921-24年)は謎が多く、ロンドンでの調査は従来の空白を埋める第一歩となった。またカザン連邦大学図書館では、内戦期に赤軍で印刷されていたタタール語の出版物を集めた。モスクワのRGVAでは、前年度に行なったバシュコルトスタン共和国中央歴史文書館での調査のノートを基に、1920年にオレンブルグからタシュケントに移ったハキーモフが勤務したトルキスタン方面軍政治部の文書を閲覧した。そこでは、ハキーモフが現地民から赤軍を組織する際の政治教育で中心的な役割を果たしていたことが、従来知られていない文書とともに確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASEEESでの報告は、戦間期のソ連をグローバルな視座から捉えようとする近年の研究動向と合致し専門家の反響も大きかったので、これは次年度に活字にまとめたい。また12月にウファの国際会議で本研究の成果、とくにIORの文書について地元の研究者に紹介できたのは意義深い。 これまでの資料調査で、まだ精粗はあるものの、オレンブルグ、タシュケント、ブハラ、マシュハド、ジッダ、サヌアというハキーモフのキャリア形成の軌跡は見通せるようになった。とくに、マシュハドのイギリス領事と領事館駐在武官の日誌や諜報記録は貴重で、そこからは1921年12月の着任時からラシュトの領事として異動する1923年6月まで綿密にハキーモフの挙動・発言を追跡していたことが分かった。ただ、ハキーモフがラシュトで参画したといわれる「ソヴィエト・イラン混合国境委員会」については、平成26年度にウファの文書館で確認したものの、具体的な情報が得られていない。これは平成27年度にモスクワの外交史料館で調査する際の課題になる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度はモスクワの外交史料館(AVPRF)と経済文書館(RGAE)の調査を並行して行う。AVPRFでは、前年度のロンドンでの調査を基に、マシュハドとラシュトの領事館の活動に関して文書を閲覧する。RGAEでは、紅海東岸での英ソの競合、それを利用するサウジアラビアとイエメンという文脈にハキーモフの活動を位置付ける論文を仕上げるために、ソ連の海運を統括した組織(Sovtorgflot, f. 7795)に加え、彼が勤めた中東国営通商(f. 6858)とその後継組織(f. 4040)に関する文書群などを閲覧する。成果報告は、平成27年8月に幕張で開催される国際中東欧研究学会第9 回世界大会などで行なう。 平成28年度は、それまでに集めた史料の分析を深化させ、論点を整理した上で、情報の取りこぼしがないか、再度モスクワの文書館を中心に調査する。最終年度であるので、総括として国内外の学会で積極的に成果を発信したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年8月頭に幕張で行なわれる国際中東欧研究学会(ICCEES)の前に、スラブ・ユーラシア研究センター恒例の夏期シンポジウムを27年7月末に本研究代表者を中心に開催することが26年11月頃に最終決定したので、ゲストの招待や英文校閲に必要な経費を確保する必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分は、以下の二つに用いる。1)7月に札幌で行う国際シンポジウムで、東京-札幌間の往復航空券と4泊の滞在費を一人分負担。2)このシンポジウムとICCEESに提出する英文ペーパーのための校閲費。 その他大きな支出と考えられるのは、27年2月に2週間ほど計画しているモスクワでの文書館調査である。
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