調査地であるバンドン湾は、カキ・ハイガイのタイ国内最大の産地であると同時に、その養殖方法は極めて粗放的であることが特徴である。このように、例えば広島などの同種養殖において極めて集約的ないわゆる「先進地」と比べ、ヒトの介入度が低く、かつ高い収量が維持されるためには、生産地(=バンドン湾)そのものが、高い生産性を持っていることが考えられる。これまで、生産性に関して他機関と協働により、主にカキ・ハイガイの餌となる植物プランクトンに代表される一次生産量評価を行ってきた。その結果、極めて良好な環境であることが分かり、仮説は証明された。 その一方で、生産を環境に依存しているがため、環境変動によって漁民の収入は大きく変動する。ヒトの暮らしには環境変動による資源の減少は、「生業」の持続性を脅かす負の要因となる。そこで、バンドン湾での養殖が始まってから現在までの約50年に渡る災害の実態把握を行った。同時に、生産量の変動も把握した。これにより、災害規模と生産量の減少、そして回復時間についてある程度把握することが出来た。また、災害を要因としない生産量の変動があることも新たに発見された。この要因については、制度変更によるものが多いことが考えられた。 先にも述べたように、ヒトの生業の持続性は収入源となる資源の持続的な利用が重要であるが、制度変更によっても持続性の破たんが起こり得ることが明らかとなった。これまで生態資源の持続に関しては、理化学的な評価が主であったが、今回明らかになった施政要因も評価軸に取り込むことで、より現実的な「管理」が行える可能性を示すことが出来た。
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