研究課題/領域番号 |
25360005
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
阪本 公美子 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60333134)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンザニア / 母子保健 / 在来知 / サブシスタンス(生存維持) / IMR(乳児死亡率) / U5MR(幼児死亡率) / 伝統医療 / 女性世帯主世帯 |
研究概要 |
本研究課題では、これまで筆者が生存維持による相互扶助関係に注目してきた地域において、乳幼児死亡率が高いことに改めて着目し、そのパラドックスに取り組む。これまで乳幼児死亡の説明で活用されてきた直接的要因も踏まえつつ、社会構造等の間接的要因も各地域にて包括的に分析し、地域比較によりその固有性と普遍性を明らかにすることを目的とする。昨年度は予定通り乳幼児死亡率がタンザニアにおいて最も低い南東部リンディ州、中部ドドマ州、ザンジバル北部において現地調査を開始し、先行研究・研究蓄積も整理した。 研究計画に明記した本年度の計画については、以下の通りである。 (1)【データ分析】タンザニア州別データについて、タンザニアDHSの各種州別データを確認し「貧困」地域の位置づけをした。またユニセフ(ダルエスサラーム及びザンジバル事務所)にてタンザニアにおける乳幼児支援をとりまく環境や分析、南東部専門家から州内の健康・食糧の状況について聞き取りを行い、医療保健データも入手した。 (2) 【最貧困地域の生存にかかわる間接的要因の影響】1.[乳幼児死亡の直接的原因]について、三地域にて母親や医療関係者などから聞き取りを行い状況を確認した。2.[個人や社会の価値観・選択・知識]子どもの出産や死亡に関する意識ついて、母親・伝統医・村の有識者から聞き取りを行った。3.[社会構造]成女儀礼について、南東部母系的社会、スワヒリ地域、アフリカ中部母系的社会を網羅して先行研究をレビューし、南東部の成人儀礼の研究蓄積の整理も行った。協働組織、家族構成に関する研究成果も発表した。4.[自然との関係]中部・南東部(・ザンジバル)にて伝統医師・有識者から、薬草・有用植物についての聞き取り、樹木の観察をした。5.[歴史的変容]南東部・中部において子どもの出産と生存に焦点を当てたライフ・ヒストリーの聞き取りを開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた三地域(タンザニア南東部リンディ州、中部ドドマ州、ザンジバル)において現地調査を開始し、前者二州では、これまでの研究蓄積を活用し、新たな知見を入手した。ザンジバルでは、協力者の紹介もあり、現地農村調査を開始できた。関連先行研究の整理を行うとともに、これまでの研究蓄積の整理を進めることもできた。 (1)【データ分析】「貧困」地域の位置づけについては、タンザニアの現場においても、DHSが最新の信頼できる情報であることを確認し、最「貧困」地域の位置づけに関するデータ分析に着手することができた。 (2)【最貧困地域の生存にかかわる「間接的要因」の影響】(a)南東部リンディ州、(b)中部ドドマ州においては、 1.乳幼児死亡率の直接的原因を各地域で概ね確認し、2.個人や社会の価値観・選択・知識についても、調査を進めた。子どもの葬式などについてもインフォーマントより聞き取りを行った。3.社会構造については、成人儀礼・協働組織・家族構成に関連した研究を進めた。成人儀礼については先行研究および研究蓄積を整理した。協働組織については、研究蓄積に基づきその変遷をまとめ発表した。家族構成については、女性世帯世帯と夫婦世帯の女性たちを比較した。4.自然との関係については、植生の異なる地域における薬草について、伝統医の案内により知見を深めた。5.歴史的変容については、ドドマ州においてこれまでのライフヒストリーをもとにした追加的聞き取り、リンディ州においてはこれまでの質問票インタビュー対象者から、子どもの生存や健康に焦点を当てたライフヒストリーの聞き取りを行った。 (c)ザンジバルにおいては、先行研究整理とともに、予定していた調査準備だけでなく、実際、ザンジバル北部における農村にて事前現地調査も行った。 (3)【生存と死亡の包括的理解】乳幼児死亡に関する先行研究について整理を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
研究申請書にて提示した骨格や三地域の比較については維持しつつ、昨年度の研究からデータの有無、焦点を当てるべき課題などが明らかになったため、来年度以降は以下の点に焦点を当てた研究を推進する。 (1)【データ分析による対象貧困地域の位置づけ】昨年度調査から、最新の信頼できるデータがタンザニアDHSであり、県レベルまでの母子保健のデータは存在するが、村レベルでの信頼できるデータは存在しないことが明らかになった(ユニセフ、南東部医療機関等)。よってタンザニア全体についてはタンザニアDHSを活用した分析により対象地域の位置づけを行う。今年度調査ではドドマ州医療機関より県レベルまでのデータ、ザンジバルでも類似したデータの入手を試み、対象農村・県の位置づけを明らかにする。 (2)【最貧困地域の生存にかかわる間接的要因の影響】1.昨年度の調査結果を踏まえ、タンザニア南東部・中部において、子どもの生存・健康・栄養とその知識、成女儀礼・教育・年配者による知識伝授、生活や食、相互扶助関係等に焦点を当てた女性(世帯主別)に対するスワヒリ語質問票インタビュー調査を行う。上記(1)のデータに基づき、対象農村を決定する。ザンジバルでは、タンザニア本土と意識や環境が異なるため、今年度は小規模のパイロット質問票調査から始める。2.三地域において、伝統医療関係者などの協力を得て、薬草などに関する聞き取り・観察を進める。3.成女儀礼に関する聞き取りと観察を進め、研究蓄積・先行研究の整理と照らし合わせる。4.来年度を目途に、質問票対象者のうち、子どもの生存や健康について知見が深まると考えた対象者のライフヒストリーを聞き取り研究を深める。 (3)上記調査に基づき三地域における【生存と死亡の包括的理解】についてまとめる。(4)三地域比較の特徴の相違点と共通点から【生存をめぐる最貧困地域の特徴の普遍性と固有性】を明らかにする。
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