研究実績の概要 |
タンザニアでは貧困地域にこそ生存維持のための相互扶助関係が醸成されてきたが、死亡率をみると生存が必ずしも維持されてきていない。本課題ではタンザニアにおいて乳幼児死亡率が最も高かった南東部リンディ州、中部ドドマ州、ザンジバル北部を対象に、乳幼児死亡の要因の一般性と特殊性と、相互扶助がどの程度子どもの生存に寄与するかを分析した。各地域において、ムチンガⅡ(ム)村、マジェレコ(マ)村、チャアニ旧(チャ)村を対象にし、村内の全村区にて、女性世帯主世帯と夫婦世帯から同数の再生産年齢の女性を抽出し、合計238名の女性に質問票インタビューや他調査を行った。全ての村で半数近く (42%,48%,47%)の女性が乳幼児の死亡を経験していた。この乳幼児の死亡経験と死亡数を統計(クロス・相関関係)分析し、乳幼児死亡の関連要因を探った。 乳幼児の死亡に関連する要因として、先行研究でも議論されてきた出産場所や介助者、母子保健の知識や教育の有無、食料アクセスを確認し、新たに食をめぐる相互扶助の貢献も明らかにした。しかしこれらの影響には地域差があった。第一に、出産場所や介助者の影響は、村内に医療施設が存在していないム村ではみられなかった。他方ム村では子どもの薬への現金支援を他人から得た女性の方が乳幼児の死を経験しており、子どもが瀕死の状態においてのみ現金支援を得た。第二に、母子保健の知識や教育は、初等学校就学率が比較的低いスワヒリ地域農村(ム村とチャ村)にて乳幼児の生存に影響していた。第三に、食料に関する要因は、食の充足や相互扶助が機能しているチャ村でみられず、食料不足を経験する本土2村にてみられた。モロコシの離乳食はム村で乳幼児の生存に寄与していたが、マ村では敬遠されていた。2村では相互扶助に内包されている子どもの生存率は高かったが、相当数の女性や子どもがその相互扶助からもれていたことが明らかになった。
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