ウルグアイ国内外の先行研究、昨年の現地調査での研究者インタビュー、2015年から2016年にかけて来日した現地世論調査会社代表へのインタビューから、少なくともウルグアイの研究者の間では「二つの悪魔説」は過去のものとなっていること、にもかかわらずこの言説が消えないのは、軍政期人権侵害を免責する「失効法」制定にかかわった伝統政党の政治家が、(元ゲリラが全く影響力を失ったアルゼンチンと異なり)合法政党化し際立った成功をおさめた元ゲリラ(ムヒカら)を政治的に攻撃するために利用しているからであること、またゲリラの側も過去の非合法活動を「軍との戦い」ととらえ、軍部と歴史観を共有していることがわかった。また現地の歴史研究には、過去の歴史の政治的利用が長い伝統持っていることを示す先行研究がある。平成27年度は本務校の短期海外研修の機会を得て、5月1日~13日にウルグアイ地方選挙を調査した。調査地は首都と国民党の牙城である内陸部のセロ・ラルゴ州で、後者ではコロラド党の現市長、国民党の市長立候補者の1人(地方首長選挙では同じ党から3人まで立候補できる)にインタビューした。セロ・ラルゴ州知事選挙は拡大戦線の最大会派MPP(ムヒカの会派)と国民党現職の接戦となった。拡大戦線の有力候補が演説で国民党のシンボル的存在でセロ・ラルゴゆかりのサラビア(コロラド党にとっては政府への反乱を起こした人物)に言及しつつその後継として自らを位置づけるという、「歴史の政治利用」の現場をまのあたりにすることができた。移行期正義にかかわる記憶闘争と歴史の政治的利用も、より広い政治史の文脈で再考すべきであろう。 地方選挙の結果もふくめて、選挙における「歴史の政治利用」については「ウルグアイ2014年大統領・国政選挙:『拡大戦線の時代』到来か」が『ラテンアメリカ・レポート』第32巻第1号(2015年6月)に掲載された。
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