研究課題/領域番号 |
25360019
|
研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
平体 由美 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (90275107)
|
研究分担者 |
小野 直子 富山大学, 人文学部, 准教授 (00303199)
松原 宏之 立教大学, 文学部, 准教授 (00334615)
山岸 敬和 南山大学, 外国語学部, 教授 (00454405)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 研究者交流 / 情報交換 / 医療制度 / 公衆衛生 / 精神医療 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、今年度も個人の情報収集並びに分析、他地域関連分野の研究を行っている講師をお招きしての合同研究会、および個人の研究発表を行った。 情報収集および個人の研究発表としては、研究分担者2名がアメリカに赴き、それぞれ病院制度とソーシャルワーカーについての一次史料の収集を行った。また昨年度アメリカに史料収集に出かけた2名は、史料分析をすすめ、得られた知見の一部をアメリカ学会(6月@沖縄コンベンションセンター)、および当科研グループにおける合同研究会(12月)で報告した。 合同研究会については以下の通りである。7月の合同研究会においては、日本の精神医療と患者の語りについての研究をお話しいただき、一次史料の「読み」の多様性と、そこから見えてくるさまざまな可能性について、知見を広げることができた。精神医療とそれ以外の医療を研究上区別することの意味と、統合することによって見える可能性について示唆を得た。12月の合同研究会では、日本の戦時救護と平時救護の問題に関して、第一次世界大戦後の赤十字病院と看護婦の役割の検討する研究についてお話しいただいた。ここで医療構造の中に立ち現れる社会的地位や秩序の問題、平時における軍の位置づけの問題、先進国で第一次大戦後同時に発生したように思われる健康維持に関する言説と赤十字の役割についてなど、さまざまな研究上のモチーフを組み合わせた議論を交わすことができた。 アメリカ以外の様々な研究を多角的に吸収し、合同研究会において議論することで、個人ですすめる研究に様々な肉付けをすることが可能となった。とりわけ史料の読み方を一人一人が再検討することにより、今後発表していく研究成果に、より深みをもたらすことができるものと思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、26年度も講師を招聘しての合同研究会(2回)、各参加者による出版資料・オンライン資料の収集、アメリカ合衆国における一次史料の収集(松原、山岸)を行った。 合同研究会については、7月の合同研究会に慶応大学の鈴木晃仁教授(イギリス医療史、日本精神医療史)をお招きし、患者が主体的にかかわる精神医療の形を、症例誌の分析から浮かび上がらせる手法について学んだ。12月には京都産業大学の山下麻衣教授(日本医療史、看護史)にお願いし、戦間期における日本赤十字の活動についてお話しいただいた。そこで医療従事者全体における看護婦の地位の複雑さ、および看護婦の種類の違い(病院看護婦の他、訪問看護婦や派出看護婦など)がもたらした地位の揺らぎなどについて、アメリカと比較しながら考える機会を得た。 合同研究会はまた、それぞれ内にこもりがちな歴史研究者にとって、知見を交換し合うことによる創造的な場になったことを強調したい。 一次史料収集のための海外出張としては、松原がニューヨーク市立図書館においてリリアン・ウォルドを中心とするソーシャルワーカー兼活動家たちに焦点を絞り、個人史料収集を行った。また山岸はジョンズ・ホプキンズ大学医学部と大学病院の、20世紀転換期、すなわち病院が貧民対象の慈善事業からミドルクラスが受容する機構に移行する時代の史料を収集した。 26年度を通して、人種・エスニシティ論を中心とした国民化論と、専門家と市民とのコミュニケーションギャップを埋めるための科学コミュニケーション論との接合について、それぞれがある程度の議論を展開できる段階に達したといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
25年度、26年度の個人研究および合同研究会を通して、我々は「国民として望ましい身体」を考察するうえで考えうる様々なアプローチ方法を、それぞれ試みてみる機会を得た。具体的には「科学」と「専門家」の社会的立ち位置をめぐるポリティクス、人口動態統計と人口移動の考え方、軍隊と社会の接点のとらえ方、「患者」の主体性の取り込み方などがそれにあたる。 27年度は、上のアプローチ群から各自がそれぞれのテーマに合わせて問題への接近方法を検討し、実際に学会部会や小シンポジウムで学界へと問いかけ、そこでの議論を経て全体として新しいアメリカ医療史の提案をまとめる時としたい。個人の調査研究とともに、9月のアメリカ史学会(札幌)では部会報告として平体、小野、山岸が報告を、松原が全体を俯瞰してのコメント行う。また10月には東京都内で、9月の札幌でのアメリカ史学会に参加が難しい大学院生や若手研究者をターゲットに、アメリカ政治研究会と共催で小シンポジウムを開催する。そこでは平体が全体趣旨の説明を、小野、松原が報告を、山岸がコメントを行う。 最終的には全員で、ひとつのまとまった研究を、論集の形で世に問いたいと考える。その最後の調査研究および議論と検討を、最終年度である本年度中に実施する所存である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1.講師としてお招きした方の旅費が当初見込みより安くなったため。当初の予定では台湾から植民地公衆衛生行政史の専門家をお呼びする予定だったが、先方の急な家庭の事情でお越しいただくことができなくなった。代わって日本国内の研究者をお招きしたことにより、旅費は大幅に削減された。 2.海外の雑誌に論文を投稿するため、英文チェック料と投稿審査料を予定していたが、年度中に完成させることができなかった。 3.資料整理のアルバイトを雇用する予定だったが、自分で整理してしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
海外の雑誌に論文を投稿するため、英文チェック料と投稿審査料を考える。 アメリカ史学会および小シンポジウムの旅費滞在費に使用する。コメンテーターを複数用意するため、お願いした方々の旅費に使用する。
|