多文化社会ケベックにおける「インターカルチュラリズム(interculturalisme)」に関わる動向について、『ブシャール=テイラー報告』を主な手がかりとしつつ、以下に着目しながら現地調査を行った。1)インターカルチュラリズムに関する専門家、有識者の見解、2)「ケベック価値憲章」案(2013年に州政府が提案し、法案として上程したが、翌年の政権交代により廃案となった)および「アコモデーション(妥当なる調整)」をめぐる論争、3)「宗教文化教育」をはじめとする学校教育での取り組み、4)インターカルチュラリズムを推進する団体・組織等の活動、5)日常のレベルでインターカルチュラリズムリズムがどのように捉えられ、実践されているのか、等。
特に最終年度は、ケベック州内の地域差とともに、人びとの出自や出身文化の相違にも留意ながら現状と課題を把握することを試みた。具体的には、移民が集中するモントリオール都市圏(ブロサールも含む)だけでなく、移民が比較的少ない地方都市(シェルブルック)や、ほとんどいない町村(サンコーム)にも赴き、何世代も続くフランス系の住民から、移民や難民として最近移住してきた住民までを含む多様な人びとから、日常生活に根ざした率直な声を拾うことに努めた。
以上を通じて、『ブシャール=テイラー報告』後のインターカルチュラリズムをめぐる現状を、政策レベル、教育の現場、日常的に多文化が接する「場」、さらには地域や出自の違いから光を当て、その課題と可能性を多層的に検討、考察することができた。
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