本研究では、国立アメリカン・インディアン博物館(1989年法案成立、2004年開館)ならびに国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館(2003年法案成立、2016年9月開館予定)の設立法案が可決するまでの過程に注目することを通じて、マイノリティ集団と主流社会の間で展開される公的記憶を巡る攻防の一端を明らかにした。具体的には、博物館の設立法案が審議された時代の文脈、コレクションや建設地の有無など物理的な要因、連邦議会の議事運営の特徴や慣習などを考慮に入れつつ、両博物館の推進者(アメリカ先住民とアフリカ系アメリカ人)がどのような記憶のポリティクスを駆使したことで国立博物館が実現したのか、つまりどのようにしてアメリカの「国民物語」に再編を迫ったのかを、比較検討した。 このような比較を通じて、両集団のマイノリティとしての共通性および特殊性を抽出した。なお、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の開館が遅れているため、展示・教育プログラムの比較検討を行うことが研究期間内にはできなかった。今後、本研究の成果を踏まえて両博物館の展示・教育プログラムの比較検討を行うと同時に、国立アメリカン・ラティーノ博物館推進運動などの新しい動きも追うことで、「国民物語」の再編や最近の多文化主義の動向、多文化共生社会の実現に向けて国立エスニック博物館が果たしうる役割を明らかにすることを研究課題としたい。
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